四十八茶百鼠(ねずみ)という。天下太平を謳歌(おうか)した江戸時代、富を築いた町人らは衣服にも贅(ぜい)を凝らした。幕府はたびたび奢侈(しゃし)禁止令を出して、ぜいたくを禁じたが、火が付いたおしゃれ心は収まらない▼だから、地味な色合いの中に、繊細にして豊かな変化をつけて楽しんだ。その象徴が、四十八の茶色と百の鼠色という訳である▼『日本の色辞典』(吉岡幸雄著)によれば、色の名は団十郎茶や利休茶など歌舞伎役者や歴史上の人物、風月山水などにちなんで付けられた。想思鼠に桜鼠、紅消鼠、薄雲鼠に壁鼠、生壁鼠…。先人の何とも粋な色彩と言葉の感覚に、舌を巻く思いだ▼何ともあきれるのは、電力会社の姿勢だ。原子力規制委の調査で、福井の敦賀原発に続き、青森の東通原発でも敷地内を活断層が走る可能性が高いことが分かった。黒もしくは限りなく黒に近い灰色、との判断である。怪しげな灰色を「白」と言い募っていた電力会社とは、どういう色彩感覚の持ち主なのか▼規制委は下北半島沖を走る「大陸棚外縁断層」の影響も調べるという。半島には使用済み核燃料の中間貯蔵施設もある。そこが危険となれば、日本の原発は正真正銘「トイレなきマンション」になる▼敦賀鼠と東通鼠は、ほとんど真っ黒と分かった。大飯鼠や志賀鼠、下北大鼠は、果たしてどんな色合いか。目を凝らして見極めねばならぬ。