最大二・四三倍の「一票の格差」があった衆院選は無効として、弁護士らが全国の高裁に提訴した。「違憲状態」の区割りのまま実施されたからだ。論点は明確であり、高裁は早急に判断すべきだ。
「サッカーでレッドカードを受けた選手が、そのままプレーを続けているのと同じだ」
東京、大阪、名古屋など全国十四の高裁・支部で、選挙無効を求め訴訟を起こした弁護士グループは、そう述べた。二〇〇九年の衆院選は最大二・三〇倍の格差で、最高裁大法廷は「違憲状態」と判断した。今回は小選挙区の区割りが同じ状態のまま行われた。
むしろ、二・四三倍と格差は拡大し、「違憲状態」はさらに悪化したのだ。また、最高裁判決から選挙まで一年九カ月あった。選挙制度を見直すには十分な時間があったことを考え合わせると、今度は「違憲」へと踏み込むことも予想される。
最高裁判決は、四十七都道府県にあらかじめ一議席を配分する「一人別枠方式」を廃止するように求めていた。国会は「〇増五減」の法案を成立させているが、同方式の廃止は考慮していない。
司法府をないがしろにしているのと同然で、初めて「選挙無効」となる可能性まで指摘されている。三権分立の立場からも厳しい司法判断は免れまい。
「違憲状態の選挙で選ばれた正当性のない議員が、国家権力を行使するのは許されない」とも、同グループは語った。住所によって格差が起きない完全な「一人一票」を求めている人々だ。投票価値の平等は、民主主義の骨格をなす原理であろう。正当な選挙とは何かについて、裁判所は真正面から明確に述べてほしい。
大事なのは、原告らが公職選挙法に基づいて、百日以内に判決を求めている点だ。同法は「他の訴訟の順序にかかわらず速やかにその裁判をしなければならない」と定めている。〇九年選挙と同じ状態での選挙であるから、論点は出尽くしているはずだ。高裁と最高裁は余計な時間を費やさず、早く結論を導くべきである。
来年夏には参院選が待ち受ける。五倍超あった格差が最高裁から「違憲状態」と指弾された。「四増四減」とする改革案が成立したものの、弥縫(びほう)策にすぎない。判決では「選挙制度の仕組み自体の見直しが必要」と異例の警告が付いた。衆参ともに限りない一票の平等を目指すときだ。
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