十三年半ぶりに首都東京のリーダーが交代する。前知事石原慎太郎氏の右腕だった前副知事猪瀬直樹氏が舵(かじ)を取る。街も人も急速に老いていく時代にある。命と暮らしを守る経営戦略こそ問われる。
勝利した猪瀬氏は「都民のみなさんの『改革をスピードアップしろ』という叱咤(しった)激励だと思う」と決意を語った。副知事時代からの仕事ぶりがお墨付きを得られたとの自信がにじみ出た言葉だった。
例えば、東京電力の改革や東京メトロと都営地下鉄の一元化といった取り組みを挙げた。現場にじかに足を運ぶ行動力が支持された面もあるだろう。
石原都政はどちらかといえば公共事業を中心とした景気の下支えに力点を置いてきた。高層ビルが立ち並ぶ大規模開発や羽田空港の国際化、三環状道路の整備、築地市場の移転などは象徴的だ。
石原氏は自らが問題意識を抱いた分野を取り上げ、トップダウン方式で政策を遂行した。半ば力任せのような強気の姿勢が人気を集めてきたのかもしれない。
その石原都政の継承か転換かが選挙の焦点だった。石原氏より禅譲を受けた形の猪瀬氏だが、思い切った転換を避けては通れまい。
都税収入が減っている。リーマン・ショックを挟み、二〇〇七年度に五兆五千億円だったのが一一年度は四兆一千億円に落ち込んだ。五輪を招致できても、八年後の開催に支障が出ないか不安だ。
都の予測では、ちょうど二〇年ごろには千三百万人余りの人口が減少に転じ、四人に一人が六十五歳以上の高齢者になる。その四人に一人は一人暮らしの見通しだ。
強者が弱者に救いの手を差し伸べるだけでは間に合わない。弱者同士が互いに助け合わなければ成り立たない社会になる。生活の下支えがさらに緊急性を増す。
これは日本の縮図である。医療や介護、福祉、雇用といったハードルをどう乗り越えるのか。東京モデルを示せるかが試される。
老朽インフラの手当ても待ったなしだ。中央自動車道笹子トンネルの崩落が警鐘を鳴らした。ビルや住宅、道路、鉄道、橋や港まで首都直下地震への備えを兼ねた点検や改修が急務だ。
多くの課題を抱えた首都を限られた財源でどう運営するのか。将来を見据えた知恵と工夫が要る。
地域を熟知する区市町村への分権をもっと進める。神奈川や千葉、埼玉ともっと連携して“首都圏連合”として動く。縦横無尽の視点からの政策展開が大切だ。
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