全国の介護施設で最低賃金や残業代を支払わず、長時間労働や無理な交代勤務を強いる法令違反が横行している。これでは介護そのものが壊れる。悪質事業者を野放しにせず、監督を徹底すべきだ。
介護現場の苦悩を示すデータがある。「東京介護福祉労組」(東京)が今年、全国の介護職員にブログなどを通じて回答を呼び掛けた「夜勤実態調査」には切実な声が寄せられた。「夜勤は一人で多くの入所者を担当する。休憩が取れない」「夜勤明けは午前中も働いているのに『公休日』として扱われる」「タイムカードがない。時間外や休日労働の労使協定もない」などだ。
東京都内の老人施設で働く二十代の男性職員は、同じ法人が運営する複数施設で勤務を掛け持ちさせられ、同じ日に別の施設で日勤と夜勤をすることがある。調査をまとめた同労組の田原聖子さんは「明らかな労基法違反。働く人がぼろぼろになっている」という。
介護事業所は全国に六万以上あるが、ずさんな労務管理で、経営側の思うままに働かされる例が絶えない。体を壊し、うつ病になる。毎月のように職員が一人、二人と辞めていく施設は珍しくない。都内のある施設は一年で十人すべての職員が入れ替わった。介護を受ける側にとっても、職員が使い捨てのように代わる状況は好ましくない。
介護保険事業を担う自治体も違法な働かせ方を問題とみて、労基署が労働者側から申告を受けた施設を中心に立ち入り検査を行っている。だが、職員不足で監督指導も追いついていないのが現状だ。
厚生労働省が昨年、介護施設も含めた全国の社会福祉施設七千五カ所を対象にした立ち入り検査では、五千三百八十二カ所で違反が見つかった。違反率76%。主な違反は「労働時間管理」(二千百八十件)、「割増賃金の未払い」(二千五十四件)など。書類送検された重大違反は七件あった。
違反を防ぐには、行政が福祉と労働の両面からもっと連携していくことだ。事業を認める時は入居者のサービス管理だけでなく、労働者を守る体制になっているかを問うことで、悪質な事業者は排除されるのではないか。
本来、手助けを必要とする人たちのために働く職員は、余裕を持って、温かみのある仕事をしたいという志を持った人が多い。高齢化への道を突き進む日本社会にとって宝としたい人たちだ。大事に守っていきたい。
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