今年を表す漢字は、「金」。「金の年」の立役者の一人、ロンドン五輪レスリング女子48キロ級の覇者、小原日登美(ひとみ)さんに金メダルを見せていただいた。メダルは直径八・五センチで重さは四百グラムほど。だが、実際に手にしたメダルは数字以上に大きく、何とも言えず、ずしりと重かった▼きのう、中日体育賞を受賞した小原選手が選ぶ今年の字は、「八」だそうだ。青森の八戸出身で五輪の決勝は八月八日だった。その前日、対戦相手を決めるくじを引いたら「8」。同郷の伊調馨選手のくじも「8」。「これはいける」との予感通り二人とも金。「ラッキー7でなく、8です」と笑う▼小原選手の競技人生は、まさしく七転び八起きだった。小学生のころは「体力測定でもごく普通。そう有望とは思えなかった」と恩師が振り返るような子。不器用で技を覚えるのも遅かった▼人一倍の練習で世界選手権を制覇しても、五輪には手が届かない。うつ病になって故郷で引きこもり、自殺までも考えた▼父の清美さんは「人はいつでも何度でも、やり直せる」と励ましてくれたが、「もう遅い、もう無理」と言い返した。「勝てない。レスリングをやる意味がない」という娘に、父は「レスリングをやれること自体が幸せ」と諭し続けた▼小原選手が受賞にあたり揮毫(きごう)した言葉は「感謝」。のびやかで力強い、心のこもった字だった。