<子どもを不幸にするいちばん確実な方法はいつでも、なんでも手に入れられるようにしてやることである>。十八世紀フランスの思想家ルソーは代表作の『エミール』でそう指摘している。確かに、子どもが望むものをすべて与えることは、不幸への一里塚かもしれない▼高価なおもちゃは買ってもらえなくても、自ら知恵を絞って工夫をして、遊びを見つけるのが子どもに備わった才能だ。自立心は、そこから芽生えてくる▼何でも手に入るように周囲がお膳立てすることは人間の成長には必ずしもプラスではない。これは教育論にとどまらず、組織論としても通用する一面の真理だろう▼「活断層があると学生でも分かる。何でこんなところに原発を建てたのか」。専門家が口をそろえる日本原子力発電の敦賀原発は、廃炉を迫られる公算が大きくなった。原子力規制委員会の専門家が、2号機直下の破砕帯を活断層と判定したためだ▼学生でも分かることがなぜ見過ごされたのだろうか。本来、中立であるべき地層の専門家は電力会社に取り込まれ、国も甘い審査をすることでお墨付きを与えてきた。原子力ムラの構造そのものに問題があった、というべきだろう▼電力会社が望むものを何でも与え、甘やかし放題にした結果、起きたのが福島第一原発の事故だった。この不幸のつけを支払わされるのは国民である。