衆院選が公示され、福島県内で四党首が第一声を上げました。大震災・原発事故からの復興を異口同音に訴えますが、その声は、被災者の胸に響いたのでしょうか。
十二党もの多党乱立とはいえ、現職首相を含めて四党首が第一声のために福島県内に集うのは初めてではないだろうか。発生から一年八カ月が経過しても、大震災・原発事故からの復興は進まず、依然、国政上の最重要課題であることを物語ります。
民主党の野田佳彦代表(首相)が選んだいわき市は、市域の一部が福島第一原発から三十キロ圏内にかかる最前線地域です。野田氏は第一声で「福島の再生なくして日本の再生はない」と訴えました。
昨年九月の首相就任以来、野田氏はそう言い続けます。正論ですが、でも、と思ってしまう。野田内閣が復興最優先というのなら、なぜ予算流用が起きるのか、マニフェスト違反の消費税増税にこそ心血を注いだのではないか、と。
二〇三〇年代に原発稼働ゼロを目指す方針を、政府の戦略としたのは英断だとしても、その戦略自体の閣議決定は見送った。画竜点睛を欠くとはこのことです。これで自民党のエネルギー政策を批判する資格があるのか。
その自民党の安倍晋三総裁がまず訪れたのは県都・福島市。原発を長年推進してきたのは自民党政権です。安倍氏は「自民党にも大きな責任がある。真摯(しんし)に反省しなければならない」と認めました。
福島県民へのそうした謝罪は当然としても、ふるさとを大切に思う保守政党なら、事故が起きれば人々から故郷を奪う原発をなくす決意を語るべきではなかったか。
長年、政権にいた政党として、原発ゼロに向けた課題が山積していることを熟知しているからでしょうが、ゴールを定めなければ実現に向けた原動力となりません。
日本未来の党の嘉田由紀子代表は飯舘村で、社民党の福島瑞穂党首は会津若松市で、それぞれ「卒原発」「脱原発」を訴えました。
他党からはシナリオが非現実的との批判もあります。訴えに裏付けがなければ、単なるパフォーマンスと見透かされ、被災者の胸に響くことはありません。
これから福島県入りする党首も多いでしょう。日本の未来を左右する原発・エネルギー政策は大いに語るべきだ。でも、選挙後は共通の目標に向かって手を取り合ってほしいと思うのです。福島県民の犠牲を無駄にしないためにも。
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