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大学入試問題に非常に多くつかわれる朝日新聞の天声人語。読んだり書きうつしたりすることで、国語や小論文に必要な論理性を身につけることが出来ます。会員登録すると、過去50日間分の天声人語のほか、朝刊で声やオピニオンも読むことができます。
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同世代の死はこたえるが、きのうは心底もったいないと沈んだ。歌舞伎の開拓者にして当代きってのエンターテイナー、中村勘三郎さんはまだ57歳。満席の客を残し、早すぎる幕である▼「あんた、渋谷で歌舞伎なんて都落ちだよ」。若者の街でコクーン歌舞伎を始めると、祖母に泣かれたそうだ。野田秀樹さんら、現代劇の異才とも組んだ。そして平成中村座。観衆を楽しませ、ファンの裾野を広げる熱と技は人一倍だった▼地方公演の楽屋で、女形の化粧を落としていると「拍手が鳴りやまない」という。コールドクリームまみれで舞台に戻ったサービス精神は語り草だ。おちゃめな人柄そのままに、時事のアドリブも交えた自在の芸である▼あるフラワーデザイナーが、「藤娘」の踊りには造花より生花がいいと持ちかける。勘三郎さんは「女形そのものが造花ですから」と拒んだ。攻めて崩すのみならず、守るべきものを知る人でもあった▼初舞台から40代まで名乗った勘九郎は長男に譲った。孫を加えた三代での共演を夢見て、来春の歌舞伎座こけら落としを心待ちにしていたという。十八代目の襲名にあたり「勘と嗅覚(きゅうかく)、あとは運」と語っていたが、最後の一つがままならなかった▼この日の東京は朝から日本晴れ。勘三郎さんが完成を待ちわびたその小屋も、同じ思いで中村屋の復帰を念じていたに違いない。仕上げに入った唐破風(からはふ)の屋根が、青藤(あおふじ)色の工事用シートから透ける。人目をはばかり、泣いているように見えた。