もしも、この世にタイムマシンが実在し、自由自在に時間旅行ができるとしたら、この本は、最良の旅行案内書だろう。英国の作家クリストファー・ロイドさん(44)が書いた『137億年の物語』(文芸春秋)だ▼無限の力を持つ見えない点が大爆発した宇宙創成から、人類が生命の進化にさえ介入するようになった今日まで、自然と人類の物語が五百ページに詰まっている▼小さな卵に潜む驚くべき進化の秘密、古代ギリシャでオリーブの実から生まれた民主主義の誕生秘話…。世界中で五十万の読者が、この本で知的時間旅行を楽しんでいるらしい▼そのロイドさんが、ここ百年で最重要と指摘する出来事が三つある。一つは、ちょうど百年前のタイタニック号沈没。先端技術の粋を集め不沈と称された船の悲劇は、安全神話の脆(もろ)さを教えた。二つ目は、一九六九年の有人月面探査。月から地球を見て初めて、人類は地球の美しさと自分たちの儚(はかな)さを知った▼三つ目が、3・11だ。資源を際限なく消費する産業社会。それを象徴する国が大地震に襲われ、原発事故が起きた。この惨事が発した問いを考えるために、ロイドさんは福島を訪れた▼そこで確信したという。「自然と人間、資源と消費の新たなあり方を考えて、世界に示す大きなチャンスが、今の日本にはあるのです」。3・11後初の総選挙が、きょう公示される。