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大学入試問題に非常に多くつかわれる朝日新聞の天声人語。読んだり書きうつしたりすることで、国語や小論文に必要な論理性を身につけることが出来ます。会員登録すると、過去50日間分の天声人語のほか、朝刊で声やオピニオンも読むことができます。
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すっかり冬になってしまえば腹も据(す)わるのだが、冬にさしかかる時期はどこか、太陽が遠くなった心細さがある。日ごとに寒く、夕暮れは早い。紅葉(もみじ)のあとの山野はすがれて、時雨(しぐれ)が通れば趣よりも寂しさがまさる▼冬の入り口は土地土地で違う。駆け出し記者時代に暮らした北陸は、鉛色の空から降る冷雨に雪がまじった。「いっそ早く真冬になってほしい」と仲間うちでぼやき合ったものだ。片や東京は、乾いた空から吹く季節風が、ビルの谷間でひゅうと鳴る▼その木枯らしに急(せ)かされるように、木々はいま落葉がしきりだ。風に散って舗道を這(は)う光景には落魄(らくはく)のイメージが重なる。しかしよく見ると、裸になったコブシなど、ビロードに包まれたような花芽をおびただしく光らせている▼秋の落葉こそが「始まり」だと、チェコの国民的な作家チャペックが書いていた。かんしゃく玉のような小さな新しい芽が、枝という枝にぎっしりばらまかれていて、あくる年、それらのはぜる爆音とともに春がおどり出るのだと▼「自然が休養をする、とわたしたちは言う。そのじつ、自然は死にもの狂いで突貫しているのだ」(『園芸家12カ月』中公文庫)。枯れて黙したような身の内に、木々は深く春を抱くのである▼この週末、天気図は冬の曲線を描いて、北日本は雪景色が広がった。〈寒波急日本は細くなりしまま〉阿波野青畝(あわのせいほ)。はしりから本番へ、今年の冬はきっぱりやって来たようだ。生姜湯(しょうがゆ)でもすすって、腹を据えるとする。