農林漁業が加工や販売も手がける六次産業化を促すため、農林水産省が官民共同ファンドを設立する。稼げる産業に育て、働く場を増やすことが目的だ。百万人雇用の目標達成を強く求めたい。
六次産業化とは、一次産業の農業生産法人などが二次産業の食品加工や三次産業の流通・販売にも進出し、雇用増に結びつけることが狙いだ。来年二月にも官民ファンド「農林漁業成長産業化支援機構」を設立し、一千億円規模でスタートする。
六次産業化の新会社は農林漁業者を筆頭株主に据え、加工や流通・販売企業からも出資を募って株式会社として発足させる。その新会社に、ファンドが地方自治体や民間と共同出資する仕組みだ。
出資先の会社が事業に失敗すれば、公的資金である出資金は回収不能となる。農水省はリスク回避の責任を忘れてはならない。
事業は農産品ならば、収穫した枝豆などを冷凍製品にして販売先を広げていく。海産物では、サバなどを切り身にし、傷まないよう真空パック詰めにする。知恵を絞れば輸出拡大の道も開けてくる。
既に北海道では農家と農協が協働で長芋をすり、パック詰めの台湾向け輸出で年十七億円を稼ぎ出している。年収一千万円以上の農家が相次ぎ、若い後継者や農業従事者も育ってきた。こうした事例を全国に広げていくには、民間企業の参入も促すべきではないか。
しかし、農地所有は農家と農業生産法人に限られ、株式会社は認められていない。生産法人になる場合でも、役員の過半が常時農作業に従事するなどの厳しい条件を満たさなければならない。
農業従事者二百五十万人の平均年齢は六十六歳。放置すれば十年後には激減しかねない。その窮状を打破するためにも、規制緩和の検討を進めるよう求めたい。
農水省によると、二〇二〇年の食品関連産業の生産額は、介護向けやアジア市場などの拡大により、〇九年を二十兆円上回る百二十兆円に増える見通しという。
現在、日本の雇用者数五千五百万人のうち、三人に一人は派遣やアルバイトなどの不安定な非正規雇用だ。円高などによる製造業の競争力低下、人減らしが大きく影響している。
食品産業は一兆円で五万人の雇用を生み出すとされ、予測通り生産が増えれば目標を達成できる。民間の力を借りてでも働く場を増やすべきだ。百万人雇用を机上の空論に終わらせてはならない。
この記事を印刷する