ベストセラーになった『超訳 ニーチェの言葉』(白取春彦編訳)に味わい深い箴言(しんげん)がある。<この人生を簡単に、そして安楽に過ごしていきたいというのか。だったら、常に群れてやまない人々の中に混じるがいい。そして、いつも群衆と一緒につるんで、ついには自分というものを忘れ去って生きていくがいい>▼哲学者が皮肉った安楽な人生を諺(ことわざ)で言い換えるとすれば、「寄らば大樹の陰」が近いだろうか。身を寄せるなら、大木の下が安全だ。頼れるのは、勢力のある人や組織…▼転機には人間の素の顔が出る。政治家もしかり。泥舟から逃げ出すかのように、第三極や自民党に擦り寄る民主党離党者の心の声が聞こえてくるようだ▼党に残っても議席を失うのは確実だ。ならば勢いのある党から出馬したい。理屈なんて、後からいくらでも付けられる…。政権交代後の離党者は衆参で百人を超えた。理念のない「選挙互助会」の末路なのか▼引き締めに必死の党執行部は、候補者に党への忠誠を誓う文書に署名させ、当選後に党の方針に従わないときは、活動資金を返上させる「純化路線」を貫く。民主党を創設した鳩山由紀夫元首相は、この“踏み絵”を踏めずに事実上、追放される形で政界引退に追い込まれた▼群れてやまない人々の中で、安楽に生きていくのか。有権者もまた、覚悟を問われる総選挙である。