日中韓が自由貿易協定、東南アジア諸国連合などの十六カ国が域内包括的経済連携の締結交渉に入る。新たな貿易ルール作りの始まりだ。政府に各省足並みをそろえた攻めの交渉を求めたい。
日米欧の経済が金融危機などを機に停滞し、代わってアジア新興国が勢いを増している。二〇〇三年に世界の約五割を占めた先進国の国内総生産は三〇年に三分の一に縮小し、中国とインド二国だけで先進国グループと等しくなるとの推計もある。
その世界経済の激変が、アジアに照準を合わせた自由貿易構想を乱立させている。東アジア首脳会議で交渉開始が決まった日中韓自由貿易協定(FTA)、東南アジア諸国連合の十カ国に日中韓、インド、オーストラリア、ニュージーランドを加えた域内包括的経済連携(RCEP)、先行する米国主導の環太平洋連携協定(TPP)など文字通りの乱立だ。
構想の舞台はアジアだけではない。欧州連合(EU)は日本と交渉するため加盟国に承認を求めている。米国とも交渉入りの準備中だ。先進国同士の協定は途上国を締め出しかねないとして控えられてきたが、今や先進国に余裕はなく「先進国対新興国」の構図で陣取り合戦をする時代に変わった。
その象徴がTPPだ。米国、チリなど十一カ国が交渉中で、関税撤廃にとどまらず、知的財産保護など幅広い分野でルールを作り、アジア太平洋地域一帯に網を広げた壮大な貿易圏の実現を目指す。ゆくゆくは世界二位の経済大国・中国をその土俵に引き入れる思惑も秘める。「アジア回帰」を表明したオバマ米大統領の戦略だ。
中国は米国の狙いを見抜いている。尖閣問題を抱えながら、政経分離で日中韓FTAの交渉入りに踏み切った背景からは、米国と一線を画す中国の意図が読み取れる。中国は米国抜きのRCEPでも主導権を握ろうとするだろう。
世界貿易機関の機能が低下した今、貿易ルールは大国間の利害の駆け引きで決まるのが実態だ。
野田佳彦首相は日米首脳会談でTPP交渉に意欲を示した。参加すれば、日本はTPP、日中韓FTA、RCEPすべての当事者となる。米中と同時並行的に渡り合える好機到来であり、経済産業省や農林水産省などが足並みを乱す省益優先を戒め、結束することが不可欠だ。
コメ関税撤廃の例外扱いなど日本の主張を貫くためにも、米中攻防の中に埋没してはならない。
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