トヨタ自動車が大規模リコール(無料の回収・修理)を国に届け出た。自動車業界は厳しい経営環境を背景に効率化やコスト削減に必死だが、運転者の安全や信頼を裏切ることがあってはならない。
対象は主力のプリウスやカローラなど国内十三種、百五十二万台近くで、国内の一度のリコールでは過去最多。海外分を含めると約二百七十七万台に上る。事故の報告はないというが油断はできない。不具合の一つは、部品の強度不足。ハンドルを強くいっぱいに切る操作を繰り返すと、車輪とのつなぎ目がすり減り、走行中にハンドルが利かなくなる恐れがある。
もう一つは、ハイブリッドシステムの冷却用ポンプの欠陥で、走行不能になる恐れがあるという。最悪の場合、生命にかかわる事故にもつながりかねない欠陥だ。原因の徹底究明と、再発防止に手を尽くすのは当然だろう。
トヨタは十月にも、パワーウインドーに不具合の可能性があるとして、世界で七百四十三万台のリコールを届け出たばかり。自動車業界はリコールへの対応を厳格化しており、トヨタは「少しでも疑いがあれば、すぐに届け出る」方針のため、件数が増える傾向にある。事故を未然に防ぐには評価できる姿勢だが、相次ぐとなれば、利用者の目も厳しくなる。
いずれのケースも、規模が膨らんだのは、車種をまたいだ部品の共通化が要因だ。海外ではフォルクスワーゲン(VW)、国内では日産自動車も進めており、自動車各社が取り組む流れとなっている。円高や競争激化など厳しい経営環境の中、生き残りに向けて、徹底したコスト削減を図るためで、この流れは止まらない。
共通化は、限られた部品の大量生産によるコスト引き下げと、部品の調達のしやすさによる効率化につながる。半面、一つ不具合があれば、複数車種に広がるリスクもはらんでいる。本来は、高品質の部品を安価に確保しやすくなるはずだが、リコール費用がかさめば効果も色あせる。
トヨタの豊田章男社長は日ごろ「お客さまに喜んでもらえるクルマを」と語り、その結果が販売台数になり成長を生むのが重要との考えを示している。
効率化やコスト削減を優先し、安全性が損なわれかねない欠陥が生じたのでは本末転倒だ。自動車をはじめ各業界は対岸の火事などとはせず、顧客第一の原点をあらためて考えてほしい。
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