その映画の題名が示すのは、夫婦が暮らす島の面積である。「61ha 絆」。野澤和之監督が描いたのは、瀬戸内に浮かぶ小島にあるハンセン病国立療養所「大島青松園」で生きる東條高さん(82)、康江さん(79)の日常だ▼それぞれ十八歳、十五歳から始まった島の暮らしは六十年を超える。結婚から六年後に視力を失い、不自由な体のリハビリに懸命な妻に、夫は静かに寄り添う。こまやかな夫婦の情愛に心を打たれる▼「三年たったら治るからと…。みんなそうやって、うそ言われてだまされて入れられたわけや」「夫は愚痴も言わずに、私は捨てられもせずに、今日まで来れたんですよ」。他人にはうかがい知れない苦難の道のりを康江さんは淡々と語る▼二人を支えてきたのはキリスト教の信仰と歌だった。カメラは、熊本の療養所で開かれたカラオケ大会に出演する二人を追う。目の見えない妻は、舞台に立つ夫に客席からハンカチを振って応える▼<洗濯は機械がするよとさりげなく 働きくるる夫(つま)よ愛(いと)しき><山畑にトマトの苗を植え付けて 育てるは夫食するはわれ>。映画の中で紹介される康江さんの短歌は、どれも生活の実感にあふれている▼最大で八百六十床あった青松園は入所者の高齢化が進み、現在では八十五人が静かに暮らす。映画は今月二十四日から、東京・渋谷のアップリンクで公開される。