衆院が解散され、総選挙が来月十六日に行われる。長ければ次の四年間を託す選挙だ。何を基準に選べばいいのか、考え抜いて貴重な一票を投じたい。
二〇〇九年の前回衆院選から三年三カ月。衆院解散の日を迎えた有権者の思いもさまざまだろう。
民主党の挑戦を引き続き支えたいと思う人、自民党政権時代を懐かしむ人、この際、第三極の新たなリーダーに託したいという人。
確実に言えるのは、有権者の貴重な一票が次の政権の枠組みを決め、国民生活を大きく左右するということだ。日本の未来を決めるのはわれわれ有権者である。最初にこのことを確認しておきたい。
◆政治への信頼失墜
問われるべきはまず、政権交代後の三年余りだ。民主党の候補には厳しい選挙となるに違いない。
「官僚丸投げの政治から政治家主導の政治へ」など〇九年マニフェストは、輝かしい内容から政権交代の聖典にも見えた。閉塞(へいそく)状況の自民党政治からの転換を期待した有権者が多かったからこそ政権交代が実現したのだろう。
子ども手当の実現により社会全体で子どもを育てる理念はある程度定着し、外交文書公開など十分ではないが行政情報公開も前進した。無駄な公共事業の肥大にもとりあえず歯止めをかけた。
それらは自民党政権が続いていたらなし得なかった、民主党への「政権交代の果実」だろう。
にもかかわらず失望感が高いのは、マニフェストに明記されない消費税増税が強行されたからだ。
国民との契約は破られ、増税と一体であったはずの社会保障制度改革は先送りされた。行政や国会の無駄削減も十分ではない。多くの国民が消費税増税はいずれ避けられないと覚悟していたにせよ、民主党だけでなく政治全体の信頼をも失墜させた罪は極めて重い。
◆公約には具体性を
次の総選挙では、国民の生活をよくするための政権を選び、政治への信頼を回復させることが最も重要な政治課題となる。
しかし、どうやって一票を投じればいいか、戸惑っている有権者も多いのではないか。
解散直前の議席を見ても民主、自民、国民の生活が第一、公明など政党数は十五に上る。さらに新しい政党が生まれる可能性もあるし、いわゆる「第三極」勢力の大同団結もあり得る。政党数が確定するのは公示直前かもしれない。いずれにしても十を超える政党乱立の選挙となるだろう。
ただ、どんな選挙結果になろうとも、大規模な政党再編がない限り、衆参「ねじれ」国会という不安定な政治状況は続く。
たとえ自民党が第一党になり、公明党との連立で政権に返り咲いたとしても、参院では半数に達しない。他党と協力しなければ法案は成立せず、政権行き詰まりの可能性のある状況に変わりない。
参院に議席を持たない、橋下徹大阪市長率いる日本維新の会など「第三極」勢力との連携は問題解決の決定打にはならない。日本の政治はしばらく混迷の時代が続くと覚悟した方がよさそうである。
しかし、諦めは禁物だ。国民が目を離した瞬間、政治は暴走を始め、国民を苦しめる側に回る。
だからこそ、われわれ有権者も公約を見極める眼力が試されている。難しい作業だが、その繰り返しが民主主義をより強くする。
各党は有権者の目を欺かず、実現を目指す政策を公約として具体的に掲げてほしい。マニフェストはいまや「うその代名詞」とまで言われているそうだが、政策実現のための財源やその期間、手順などは、やはりなおざりにしてはならない。選挙公約が昔ながらの抽象論では、実現したかどうかの検証すらできない。
特に、国民の関心の高い政策についてはあいまいにすべきではない。例えば消費税。このまま増税を強行するのか、経済状況を見極めるのか。行政や国会の無駄をどこまでなくすのか、などなど。
また、原発稼働を続けるのか否か、安全が確認されたとして稼働させるとしてもいつまで続けるのか。原発を含むエネルギー政策は東京電力の原発事故を経験した日本国民にとって、命を守る観点から最重要課題の一つになった。
経済再生や財政再建、年金、介護、少子化対策など社会保障、外交・安全保障も争点に挙げたい。
◆実行力も判断材料
各党、候補者が政策実現の力と覚悟を本当に持っているかも重要な判断材料となる。「言うだけ」公約は願い下げだ。
有権者一人一人が膨大な情報の真偽を見極めるのは困難な作業だが、新聞はその助けとなる、頼られる存在でありたい。
それをやり遂げ、直面する混迷を脱すれば、その先に未来が待っている。そう信じたい。
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