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大学入試問題に非常に多くつかわれる朝日新聞の天声人語。読んだり書きうつしたりすることで、国語や小論文に必要な論理性を身につけることが出来ます。会員登録すると、過去50日間分の天声人語のほか、朝刊で声やオピニオンも読むことができます。
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紅葉(こうよう)は山海の恵みにも似て、はしり、さかり、なごりの各段を踏む。緑があせ、赤黄の錦が乱れ、色が散り敷かれる。落葉(らくよう)の三段跳びだ。なごりを惜しもうと、山梨・長野の県境を歩いた▼標高1300メートル。八ケ岳連峰の南に広がる清里高原は、さすがに人影まばらで、避暑地の初冬を独り占めした心地にさせる。季節はずれのリゾートも悪くない▼戦前、原野だった清里にキャンプ場を開いた米国人ポール・ラッシュは、富士を望める立地にこだわったという。南東の空が白む時刻、その山が薄墨のシルエットで浮かんだ。八ケ岳の主峰赤岳、南アルプスの甲斐駒ケ岳や北岳など、雪を薄く頂いた山並みが一瞬、紅に染まる▼ふもとのカラマツ林が黄金(こがね)色に煙っていた。風にあおられ、枝を離れた小針がヤッケに降り注ぐ。錦秋(きんしゅう)の主役だったモミジは、あらかた路傍に吹き寄せられていた。〈手に拾ふまでの紅葉(もみじ)の美しき〉和田順子▼昼夜の温度差、程よい湿度と陽光が色を磨くという。葉の彩りは残暑から秋冷への急坂を転げ、時雨(しぐれ)に洗われて深まる。秋が短かった今年は、木々の見せ場も重なりがちだ。東京の街路樹はケヤキ、サクラ、ユリノキあたりが散りぎわの芸を競う。真打ちのイチョウも盛りが近い▼初霜や初氷の便りが相次ぎ、ひと雨ごと、有無を言わせず寒さが厳しくなる。早い遅いはあれど、毎年、ホップ、ステップ、ジャンプの順で巡る季節がやけに頼もしい。一歩進んで二歩下がるような、人の世を見るにつけ。