HTTP/1.1 200 OK Date: Thu, 15 Nov 2012 23:21:55 GMT Server: Apache/2 Accept-Ranges: bytes Content-Type: text/html Connection: close Age: 0 東京新聞: ♪菜の花畠に 入日薄れ、見わたす山の端(は) 霞(かすみ…:社説・コラム(TOKYO Web)
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 ♪菜の花畠に 入日薄れ、見わたす山の端(は) 霞(かすみ)ふかし。春風そよふく 空を見れば、夕月かかりて におい淡し▼森光子さんが、一番好きだった歌は、文部省唱歌の『朧月夜(おぼろづきよ)』だったという。ぎらぎらと輝くのではなく、世の中をほんわりと照らす。九十二歳で亡くなった森さんは、まさしく、そんな女優さんだった▼子どものころから、神さまに願をかけることが好きではなかったと、自伝『人生はロングラン』(日本経済新聞出版社)で振り返っている。神さまにおさい銭をあげて頼み事をするより、月に「きょうも無事終わりました。ありがとうございます」と感謝していた。柔らかい中に芯の通った少女だったのだろう▼十五歳にもならぬうちに女優の道に進んだが、青春時代は、戦争の真っただ中だった。戦中は歌手として戦地を巡った。無理がたたって肺を病み、三十一歳の時には病死の噂(うわさ)まで流された。復帰しても脇役ばかりだった▼「幸せはいつも目の前でUターンする」と、自分に言い聞かせ続けた人生。だから恩師菊田一夫氏から「放浪記」の主役抜擢(ばってき)を告げられても、なるべく喜ぶまいと努めた。四十一歳で射止めたその主役を、八十九歳まで二千回以上も演じた▼まさに、生きて生きて生き抜いた人生。今ごろ、お月さまに「人生は無事終わりました。ありがとうございます」と言っているだろうか。

 

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