トップは浪花節で、二位は講談。三位以下は落語、義太夫、民謡…。満州事変が起きた翌年の昭和七年、NHKのラジオ番組の人気投票だ。すでに検閲が厳しく、しばしば内容はカットされるようになっていた(永六輔著『昭和 僕の芸能私史』)▼八十年の歳月が流れ、浪花節や講談を楽しむ人は少なくなった。ラジオを隅に追いやったテレビは、情報発信の王座をインターネットに譲り渡した。世代を超えたヒット曲が生まれなくなって久しい▼文化や風俗は時代とともに変わってゆくが、一角が崩れると国を危うくする領域がある。法秩序への信頼もその一つに数えられるだろう。だが、その信頼は今、法秩序を維持する責任を負う検察組織の愚行によって大きく揺らいでいる▼政治資金規正法違反罪で強制起訴された「国民の生活が第一」の小沢一郎代表の控訴審判決で、東京高裁はきのう、一審より踏み込んだ明確な無罪判断を示した▼検察審査会に提出された捜査報告書は偽造だった。それが明らかになった時点で「勝負あり」だった。検察は認めようとしないが、今回の強制起訴は素人の審査会を欺き、有力政治家を政治的に葬り去ろうとした東京地検特捜部の「権力犯罪」だった疑いが濃厚である▼傲慢(ごうまん)な検察の世直し意識を助長してきた責任の一端は、マスメディアの側にある。猛省しなければならない。