米国有権者はオバマ大統領に二期目の本格政権を託した。一期目の公約だった国民融和をどう果たすのか。米国再生もその成否にかかってこよう。
「オバマ支持者であれ、ロムニー支持者であれ、皆さんの声は届いた。熾烈(しれつ)な戦いだった。でも、それも私たちがこの国を愛し、将来を思うからこそだ」
勝利宣言でオバマ大統領はロムニー陣営の健闘を称(たた)え、今後の協調へ手を差し伸べた。それは取りも直さず、共和党との融和、分断国家の克服がいかに難しいかを物語ってもいよう。
◆厳しい1期目の評価
四年に一度の米大統領選挙は、超大国たる米国がその素顔を世界に晒(さら)すことを余儀なくされる年でもある。
二つの戦争と金融危機の前に破綻寸前だった四年前、有権者は長いためらいの末に当選一期の上院議員だったオバマ氏に国の舵(かじ)取りを託した。
「オバマ大統領は、失業率を半減させると約束し、財政赤字も半分にすると約束した。結果はどうか。財政赤字は二倍になり、二千三百万人の失業者、六人に一人の貧困層、四千七百万人の食料切符受給者、さらに、大卒者の半数が職を得られていないではないか」
ロムニー氏が執拗(しつよう)に突きつけたオバマ政権一期目の「バランスシート」は、四年前、史上初の黒人大統領誕生に涙した支持者自身にも痛切な批判となって響いたことだろう。
「大きな政府」か「小さな政府」か。「支え合い社会」か「自己責任」か。「協調外交」か「力による外交」か。選挙戦を通じて提示された対立点は際立っていた。最後まで大接戦を演じたとはいえ、獲得選挙人の数で見る限り国民の審判は明快だった。
◆有権者の消極的承認
大型景気対策を通した雇用対策、財政出動を伴う自動車産業などの企業救済、中国、中東情勢を中心とした協調外交政策の継続−。成果は十分とはいえないことを織り込みつつ、有権者は第一期の基本路線を承認した。
一方で、共和党に投じられたほぼ同数の一般投票数はそのままオバマ政権への批判票として残る。上下両院のねじれ現象も残った。来年早々には、ブッシュ政権時の減税措置の失効と、財政赤字の一律削減措置が同時に始まる「財政の崖」に陥る危機的状況には変わりはない。融和の成否は、敗れた共和党の対応にかかっている。
二〇一〇年の中間選挙で下院を奪回して以来、共和党の戦術は「オバマ再選阻止」で一貫していた。オバマケア(医療保険改革法)の成立をめぐる大統領の強引な議会工作が発端だったとはいえ、予算審議を中心に議事妨害を繰り返し、事実上政府を機能不全に追い込んだのもその一環だ。
ロムニー氏の諸政策が、結果的に有権者の多数を説得するに至らなかったのは、常にブッシュ前政権時代の米国を想起させたからだ。「ブッシュ大統領と私は別人だし、当時と時代も違う」。ロムニー氏はテレビ討論でブッシュ政権との違いを強調したがどこまで有権者に伝わっただろうか。
冷戦終結から中枢同時テロを経て、国際秩序の中で新たな指導的役割を探しあぐねる米国。今回の選挙は米国が置かれたこの時代状況下、民主党、共和党とも有効な国家像を示し得ないもどかしさに対する国民の不満が噴出した選挙でもあった。
共和党の草の根活動を担った茶会運動は多くの候補者を支持し、全国的な影響力を誇示したが、推された候補者の大衆迎合的な資質には甚だ疑問が残った。上院選挙でも予備選を通して穏健派の有力議員を追いやる例が相次ぎ、共和党の足を引っ張る皮肉な結果に繋(つな)がった。
民主党に近いウォール街占拠運動も、格差拡大への批判の声はあげつつも、具体的な市民運動には広がらなかった。
オバマ政権続投は、揺れ続ける米国有権者による消極的承認でもあろう。
◆「国のかたち」の選択
オバマケアは、政権継続により予定通り一四年に本格始動する。政権を奪回し、最高裁人事をも影響下に収め、長期的にオバマケア撤廃を目論(もくろ)む共和党のシナリオも遠のいた。今回の選択が米国の「国のかたち」に与える影響は長期に及ぶだろう。
目に余る党派対立に嫌気がさして今回出馬を辞退した共和党穏健派のスノー上院議員がその理由を米紙上で語っている。「全ての声が聞き入れられ、考慮されたことを保障する制度として上院は創設されたはずではなかったか」。オバマ大統領、ロムニー氏とも、建国理念に沿って協力する姿勢を示唆してはいる。今こそ耳を傾けるべき言葉ではないか。
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