脱法ハーブを吸い車で女子高校生をはねて死亡させた愛知県の男が、ハーブ吸引では初の危険運転致死罪で起訴された。法や条例規制も強まり、売り買いの抜け穴は一段と狭まったと観念すべきだ。
恐れていたことが、ついに起きてしまった。脱法ハーブ吸引の異常運転が原因で、何の落ち度もない若い命が突然奪われたのだ。
事故があったのは十月十日朝。春日井市の路上で横断歩道を自転車で渡っていた高校一年の女子生徒(16)が、男(30)のライトバンにはねられ頭を強く打って死亡した。興奮して錯乱状態の男を警察が追及すると、運転の前に脱法ハーブを吸ったことを認め、車内からハーブの葉や吸引器具などが見つかったとされる。
葉からは大麻より数十倍強い幻覚作用のある成分が検出されたという。これでは麻薬“以上”だ。
脱法ハーブが広まり、その被害が指摘され始めてから、使った者の交通事故や人を傷つける事件が後を絶たぬ。重軽傷者を出した交通事故は、ことし大阪と京都で計三件あり、いずれも運転の男は危険運転致傷罪で起訴された。ハーブが原因とみられる本人死亡の事例も横浜や名古屋などであった。
このように命にかかわる危険な薬物なのに、国の規制は後手に回ってきた。事故の巻き添えとなった被害者の思いはいかばかりか。「歯がゆい」と苦々しく見ていた医療関係者も少なくない。
今回の死亡事故で、容疑者の男を危険運転致死罪(最高懲役は二十年)で名古屋地検が起訴したのは、その悪質性、常習性を重く見て、過失犯ではなく故意犯との判断を固めたからである。
国に先駆け二〇〇五年、独自に規制に乗り出した東京都に倣い、十月に愛知県、大阪府も販売側への罰則付きの「脱法ハーブ条例」を制定。大阪府は使う側にも罰則を設けた。和歌山県など他県にも条例制定の動きが広がっている。
厚生労働省もやっと懸案の(1)水際阻止=国内で未流通の物質を規制対象とし、新指定薬物の中に含める(今回は十七種のうち五種。十六日実施)(2)包括指定=一括してまるごと取り締まる規制で年明けにも導入−を行う。ネット販売の監視・指導も始めた。
持病などと違い、薬物常習の幻覚運転で命の危険にさらされる方はたまらない。容易に手に入るため若者を中心に広まっており、愛知県は中学生段階からの薬物教育を急ぐ。購入する側の啓発にも、もっと力を注ぐべきではないか。
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