半導体大手、ルネサスエレクトロニクスの経営再建を主導する産業革新機構など「官民ファンド」が乱立している。新たに農林漁業や薬品の分野でもできる。官僚のやりたい放題ではないか。
官民ファンドとは、文字通り政府と民間が共同出資し、国の信用をバックに民間から集めた資金と公的資金を合わせ、さまざまな事業に投融資する。しかし、実態は、政府が大半を出資する“官製”ファンドである。投資先も、一応専門家の意見を聞く形をとるが、実際には役所の意向が色濃く反映される。
二〇〇九年に財務省と経済産業省が設立した「産業革新機構」をはじめ、国土交通省主導の「不動産市場安定化ファンド」、内閣府が所管、日本航空(JAL)を再建した「企業再生支援機構」もそうだ。さらに野田内閣の日本再生戦略に合わせ、農林水産省が「農林漁業成長産業化支援機構」を、厚生労働省は新薬づくりを支援する創薬ファンドを設立する。悪乗りなのか、全省庁が自前ファンドをつくりかねない勢いだ。
なぜ今、官民ファンドかというと、財政難で各省庁の政策的予算が削られる中で、比較的少ない予算でも大きな仕事ができる。同時に“天下り先”も確保し、予算とポストという官僚にとっての二大利権を手にするからだ。
しかし、問題は多々ある。最たるものは、責任があいまいになる点だ。投融資するのは政府保証のカネだから、焦げつけば国民負担となる。民間なら経営責任が問われ、ファンドの存続も危うくなる。だが、経産省が主導し「オールジャパン」で救済しようとした半導体大手、エルピーダメモリのように、破綻して国民負担が生じても誰も責任をとらないおそれがある。経営感覚もなく、失職のおそれもない官僚に任せる不安も大きい。
そもそも投資先が採算に見合うなら民間が乗り出すはずだ。そうでないなら淘汰(とうた)されるべきである。民間にできるものは民間に任せるのが鉄則で、官がしゃしゃり出て民業を圧迫するのは本末転倒だ。JALのように再建に成功したとしても、自力で経営努力している他社との競争で著しい不公平を生んだことを肝に銘ずべきだ。
官民ファンドは農林漁業など民間が投資しにくい分野で呼び水の役割に限るべきだ。「日の丸連合」や「オールジャパン」の美名を冠して乱造するのは許されない。
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