田中真紀子文部科学相が三大学の開学申請に「ノー」を突きつけた。大学設置・学校法人審議会の答申を覆したのだから波紋は大きい。田中氏の問題意識は分かるが、提起の仕方が間違っている。
不認可とされたのは、岡崎女子大(愛知県岡崎市)、秋田公立美術大(秋田市)、札幌保健医療大(札幌市)の三大学だ。
来春の開学に向けて教員を確保し、校舎を手当てし、志望者への説明会を開き、と準備を進めていた最中だった。文科省の指導を仰ぎ、ルールにのっとって手順を踏んできたはずだ。
文科省によると、不認可の理由は申請手続きの不備ではなく、田中氏の「政策的な判断」だという。それではあまりにも唐突すぎて、三大学は到底承服できまい。
開学するには再申請しなくてはならず、早くて二〇一四年春にずれ込みそうだ。これまでに費やした時間と資金、努力が水泡に帰しかねない。編入や進学を望んでいた人たちの戸惑いは大きい。
なぜ三大学が不認可なのか田中氏は説明を尽くす必要がある。大学の言い分に耳を傾け、落ち度がなければ引き返す度量を持つべきだろう。合理的理由もなしに行政の継続性を歪(ゆが)めてはならない。
三大学やその地元首長らが不認可の撤回を求める考えを表明している。法的措置に訴えるといった声さえ出ている。
田中氏は大学政策の在り方全体に強い問題意識を抱いているようだ。それが不認可としたきっかけだとしても筋が違う。三大学の話とは切り離して別途議論の場を設けるべきだ。
記者会見での話はこんなふうだった。大学が多くつくられ、教育の質の低下が進み、就職難にもつながっている。大学間の競争が激しく、運営が問題化するところもある。相変わらずの審議会制度そのものを見直すべきだ、と。
確かに、四年制大学は今や七百八十余りに上る。少子化にもかかわらず開学規制が緩和され、二十年前の一・五倍に増えている。
希望者全員が入学できてしまう計算だ。私立大の五割近くは定員割れになっている。文科相が解散を命じざるを得ない事態に陥った経営難の大学もある。
それに審議会メンバーには大学関係者が多い。ほとんど内輪だけの審査は形式化していないか。官僚の天下り先として審査が甘くなっていないか。そんな疑問が浮かんでくる。田中氏は新しい土俵で堂々と問題点を論じてほしい。
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