就職氷河期の本当の理由は、長期不況の中で企業が新規採用を控えているからでも、大企業が事業所を海外に移転する空洞化でもない。雇用ジャーナリストの海老原嗣生(つぐお)さんが、自著『雇用の常識 決着版』で分析している▼その理由は大学生の激増だ。一九八五年に四百五十校だった大学は二〇〇九年には七百七十二校に。大卒就職者はバブル期の八〇年代後半と二十年後を比べると、七万二千人(二四・四%)増えている▼企業の大卒新規採用は、長期的には増加傾向にある。建設・製造業や農業、自営業など、これまで高卒の受け皿だった産業が、この二十年で壊滅的な打撃を受けたため、大学進学者が増えたという▼田中真紀子文部科学相が三大学の新設を不許可にした問題は、大学設置認可に関する検討会議を早急につくり、あらためて審査することになった。法的措置も辞さないという強い反発を受け、発言はトーンダウンした▼大学の数が多すぎて教育の質が低下していることや、大学関係者に独占された審議会の形骸化など、問題意識は理解できるが、自らの決断が及ぼす影響の大きさを想像できなかったのなら大臣失格だ▼就職難一つをとっても背景は複雑に絡み合う。それを丁寧に解きほぐし具体的な「解」を政策として紡ぐのが政治家の役割のはずだ。現場を混乱させるだけの「暴走大臣」は要らない。