景気が悪化しています。世界を見渡しても、欧州は債務金融危機を脱せず、中国もバブル経済が破裂寸前です。日本はまず「政治不況」を打開せねば。
東京で開かれた先の国際通貨基金(IMF)・世界銀行年次総会は四十八年ぶりの大イベントでした。しかし正直に言って、いまひとつ盛り上がりに欠けました。
関係者の努力は多としながらも、肝心の経済に暗雲が立ち込めているからです。IMFの見通しだと、世界全体は二〇一〇年の5・1%成長から一二年は3・3%成長まで鈍化しそうです。
◆長期化必至の欧州危機
足を引っ張っているのは、まず欧州。債務金融危機からの出口がいっこうに見えてきません。引き金になったのはギリシャでしたが、その後も経済が立ち直らず、マイナス成長が続いています。
債務を減らすために歳出カットや増税に踏み切ると、景気が冷え込み、それが企業や銀行の経営を直撃する悪循環に落ち込んでしまいました。失業率はいまや25%、若者に絞れば二人に一人以上が失業という最悪の状態です。
IMFと欧州連合(EU)、欧州中央銀行(ECB)の「トロイカ」と呼ばれる三つの国際機関がギリシャへの支援を続けています。
ところが「あまり厳しい緊縮策を求めると、経済が予想以上に崩壊する」(IMF)という懸念がある一方、ドイツからは「債務削減努力を後退させれば、ギリシャは信頼を失う」という原則論もあって支援側の姿勢が乱れてきました。
金融市場では「ギリシャはユーロから脱退せざるをえない」という悲観論が消えていません。半面「ユーロは政治的な統合。欧州が面倒をみるしかない」という見方も根強く結局、問題解決はしばらく長引きそうです。
◆米国も中国も不透明に
ギリシャだけでなくスペインも大変です。一時は長期国債の金利が危険水域に跳ね上がって「どうなるか」と心配されましたが、ECBが「無制限に短期国債を買い入れる」計画を発表してから小康状態を保っています。
とはいえ、こちらも一四年までに財政赤字を国内総生産(GDP)比で2・8%にまで減らす目標の達成は難しそうです。欧州危機からは目を離せません。
次に米国。六日に投票日を迎える大統領選は民主党のオバマ大統領と共和党のロムニー候補の大接戦になっています。勝敗の行方は予断を許しませんが、どちらが勝っても、年末までに待ったなしの対応を迫られる重要課題があります。それは「財政の崖」と呼ばれる大型の財政緊縮策をどうするのか、という問題です。
ブッシュ前大統領が導入した減税策や給与税減税の失効、強制的な歳出削減メカニズムなど現行の制度をそのまま実施すると、自動的に六千億ドルもの緊縮策が発動してしまう。すべての緊縮策が実行されれば、一挙に景気後退に陥るのが確実視されています。
いまでも8%前後の高い失業率が10%に迫りかねない。そこで崖を回避するために超党派で議論が始まっていますが、大統領選の結果次第でどうなるか。
そして中国。こちらは〇八年のリーマン・ショックの後、四兆元(約五十兆円)に上る大型景気刺激策を実施して、世界経済を下支えしました。ところが、当時の刺激策がいまになって裏目に出てきました。刺激策が過剰設備投資を招いて生産が増えすぎる供給過剰経済に陥ったのです。その結果、卸売物価も下落しています。
景気が伸び悩んでいるからといって、過剰設備を放置したまま、中国が再び大型刺激策に動く可能性は小さいとみたほうがよさそうです。
欧米中に期待できないとなると、日本はどうすべきなのか。
外需頼みではなく内需主導の経済へという掛け声は何年も前から叫ばれてきましたが、日本は外需主導を脱していません。最大の理由はデフレです。
二十年近くも物価が下落し続け、上昇する見通しがないので、企業は設備投資を控えています。国内に投資してもモノが売れないからです。物価が下がるなら借金して投資するだけ損になる。家計も財布のひもを締める。
だから最優先課題はデフレ脱却です。まず日銀は本腰を入れて金融を緩和しなければなりません。現在1%のインフレ目標は2%以上に引き上げるべきです。
◆国民生活が犠牲になる
政府は財政政策をきちんと動かす必要がある。本予算の特例公債法案さえ成立させられないのに、形だけの景気対策とは支離滅裂と言っていい。このままでは「政治不況」が確実です。政権延命のために国民経済を犠牲にする事態だけは避けてもらわねば。
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