授業で教わった古文の中身はこれっぽちも頭に残っていないのに、呪文のような言葉は今でもそらんじることができる。「せーまるきーしーしかまる」。高校の古文の授業で学んだ過去の助動詞の活用の覚え方だ▼正直に言うと、古典作品はずっと敬遠してきた。現代語訳でも当時の背景事情を知らなければ、理解するのは至難の業だ。ただ、食わず嫌いではいけないと、恥ずかしながら『源氏物語』の現代語訳の読破に挑戦してみた▼挫折しないようにまず、紫式部に光を当てた映画「源氏物語 千年の謎」を見て、瀬戸内寂聴さんの訳を読み始めた。するとどうだろう。映画のシーンと源氏物語の記述が重なり、想像力をかき立てられた▼主語を補って、読みやすさを優先した寂聴さんの訳は親しみやすく、最後まで難なく読み通せた。千年も昔の恋愛小説が現在も世界で読み継がれる理由が分かった▼きょうは初めての「古典の日」。源氏物語に関する記述が紫式部の日記に初めて登場した寛弘五(一〇〇八)年十一月一日にちなみ、超党派の議員立法で法制化された▼古典といわれる文学や芸術が生き残っているのは、時代が変わっても人々を感動させる力があるからだ。呪文を暗記させる入試向けの授業が、若い世代から古典への興味をどれだけ奪ってきたことか。愛国心教育よりも、先にやることがあるはずだ。