自白をしないと身柄拘束を続ける捜査手法は、法曹界で「人質司法」と呼ばれる。パソコンの遠隔操作による誤認逮捕事件でも、この疑惑が浮かんだ。拘置や保釈制度は早く改善されるべきだ。
パソコンで小学校の襲撃予告を書き込んだ差出人は「鬼殺銃蔵」だった。逮捕された大学生の少年は、「鬼殺は日本酒名で、銃蔵は不吉な数字の十三から」「楽しそうな小学生を見て、脅かしてやろうと思った」との趣旨の上申書を書いた。
犯人でもないのに、どうして、迫真の内容になったのか。捜査官による自白の誘導があったとしか思えない。
検察は保護観察処分の取り消しを家庭裁判所に要請したものの、自白の経緯の検証結果は、少年事件であることを理由に公表しないとしてきた。少年のプライバシーは保護されるのは当然として、焦点は捜査当局の過ちである。検証結果はむしろ公表されるべきだ。
とくに捜査官に「認めないと少年院に行く」「否認すると(拘束期間が)長くなる」と言われたと伝えられる。捜査当局は否定するが、もし事実ならば、まさに「人質司法」そのものではないか。
初公判前の保釈率は、否認のケースは自白のケースと比べて半分ほどだといわれる。重大事件でなくても、数カ月以上、保釈されないこともある。
大阪地検の郵便不正事件に巻き込まれた厚生労働省の村木厚子さんは、無実であるのに、百六十日以上も拘置された。部下だった係長は罪を認めたため、起訴後にすぐに保釈されたのと対照的だ。
否認すれば、長く拘置される実態は、被疑者・被告人の自由と引き換えに、虚偽の自白を生む温床となる。無実の人はその間に仕事を失うなど、社会生活上でさまざまな深刻な打撃をこうむる。
そもそも、無罪推定を受けているのだから、自分の無実を証明するため、速やかに保釈されるのが基本でないだろうか。裁判所が拘置すべきかどうか、きちんと判断しているのか極めて疑わしい。
日弁連では拘置の代替手段として、「住居等制限命令制度」の創設を提案している。逃亡や証拠隠滅を防ぐため、住居の特定や事件関係者との接触禁止などを裁判所が命令する仕組みだ。
法制審議会の特別部会で、新しい刑事司法について議論されている。冤罪(えんざい)が絶えない現状を考えれば、この新制度も真剣に検討する時期に来ている。
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