<昔の女学校の体格検査はちょっとした騒ぎであった>と向田邦子さんが、『潰(つぶ)れた鶴』というエッセーで振り返っている。上半身裸になって胸囲の測定や校医の診察を受ける女生徒たちは、はしゃいだり、きまり悪がったりして埒(らち)があかない▼せっかちな向田さんがパッと脱ぐと、裸になっているのは一人だけ。学級委員として友だちの面倒をみるのに裸では決まりが悪い。一度脱いだ体操着を再び着て手伝っていると、一番作法に厳しい先生が入ってきた▼気が付くと、着ているのは自分一人だけ。「何をグズグズしているの。早く脱ぎなさい」と叱られてしまう。得意になって世話を焼き、気がつけば一人取り残される性分を嘆いている▼まさか、女生徒たちのように、はしゃいだり、恥ずかしがったりしたわけではないだろう。政界でいう「身体検査」を素通りした田中慶秋法相が、就任から三週間余で辞任した。事実上の更迭である▼スピード辞任なのに居座った印象が残るのは、国会で追及されないために予定のなかった「公務」に顔を出し、できるだけ遠い刑務所への出張を画策するなど、「大臣隠し」が目に余ったからだろう▼向田さんを叱った先生ではないが、大臣にも、野田首相にも「何をグズグズしているの」と叫びたくなる。資質に欠ける政治家の「思い出づくり」に付き合わされてはたまらない。