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大学入試問題に非常に多くつかわれる朝日新聞の天声人語。読んだり書きうつしたりすることで、国語や小論文に必要な論理性を身につけることが出来ます。会員登録すると、過去50日間分の天声人語のほか、朝刊で声やオピニオンも読むことができます。
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「知る者は言わず、言う者は知らず」という。物事を深く理解する人は軽々に語らない、との戒めだ。世の地震学者は今、この言葉を呪文のように唱えていよう▼3年前にイタリアで起きた地震で、直前に「安全宣言」を出した学者ら7人に、禁錮6年の判決が下った。危険を十分に知らせず、被害を広げた過失致死傷罪。求刑の4年を上回る厳罰である▼一帯は当時、群発地震に見舞われ、不安が募っていた。発生6日前、7人は「知る者は語れ」を期待されてリスク検討会に臨む。結論は「大地震の予兆とする根拠なし」、防災局幹部は「安心して家にいていい」と踏み込んだ。遺族会によれば、やれやれと帰宅した中から30人ほどの犠牲者が出た▼死者309人、被災者6万人の現実は重いが、専門家は実刑に戸惑いを隠さない。山岡耕春(こうしゅん)名大教授は「驚いた。学者の責任を厳しく問えば、自由な発言や本音の議論を妨げる。長期的には住民にも不利益では」と語る▼口が災いの元では、学者たちは黙り、万一の備えが綻(ほころ)びかねない。同じ地震国の住人として、科学の手足を縛るような判決には首をかしげる。弁護側は「まるで中世の裁判」と控訴する構えだ▼福島の原発事故でも、東電や政府の関係者が民事と刑事の双方で訴えられている。被告席の背後にどっかと座る「安全神話」は、一片の安全宣言より罪深い。再び神話に頼ることのないよう、原子力に携わる全員が口を開く時だ。安全に関する限り、沈黙は「禁」である。