田中慶秋法相が辞任した。表向きは「体調不良」だが、暴力団関係者との交際や外国人献金問題が発覚し、国会の委員会を欠席した不適格者だ。野田佳彦首相は任命責任を厳しく自覚すべきである。
「内閣機能強化」のための第三次改造内閣が早くもつまずいた。改造後三週間余りでの閣僚辞任。首相は「任命した閣僚が職務を全うできなかった意味においては、任命権者の責任はあると思う」と責任を認めた形になってはいる。
しかし、首相に国政という重責を担う自覚があるのなら、内外に課題山積の中、党代表選での支持の見返りに閣僚ポストを与える論功行賞をやる余裕など、そもそもなかったはずだ。
法務行政に詳しくなく、閣僚として職務に愚直に取り組む姿勢もなく、組閣前すでに今回発覚したような問題ありとの情報もあった田中氏を、法相に就けた首相の判断そのものが大問題なのだ。
消費税率を引き上げる社会保障と税の「一体改革」法が成立した後、政府・与党は大仕事を終えた達成感からか、全体に緊張感を欠いているのではないか。
首相の言動からも、公債発行特例法案や衆院「一票の格差」是正など、喫緊の課題ですら処理しようとの気迫が伝わってこない。
政府・与党の思い通りに進まない「ねじれ国会」を言い訳に懸案処理に本気で取り組もうとせず、消費税増税の是非を国民に問うため直ちに踏み切るべき衆院解散も政権延命のために先延ばししているようにも見えるのだ。
首相は臨時国会を二十九日に召集する方針で、野党各党との党首会談では、公債法案や一票の格差是正などへの協力を呼びかけた。
しかし、首相が「近いうち」と明言した衆院解散時期を明示しないため、自民、公明両党が態度を硬化させており、懸案処理のめどは立っていない。
この状況を打開するには政権と国会の運営に最大の責任を有する首相がまず大胆に譲歩すべきだ。
一票の格差是正は、小選挙区定数の「〇増五減」に加え、比例代表定数を四十減らして一部に連用制を導入する民主党案を断念し、〇増五減を先行させる自民党案を受け入れる。公債法案成立の前提として自民党が求める本年度予算の減額補正にも応じる、などだ。
首相が譲歩すれば、自公両党など野党側も懸案処理への協力を惜しんではならない。それが政治を少しでも前に進める一歩となる。
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