放射線被ばくを伴う原発労働は白血病やがんなどの発症リスクを高めるが、原発作業員の労災認定率は異常に低い。国が認定基準で例示した疾患も限られている。救済の門戸は広げられるべきだ。
原発の定期点検は一基につき三千〜四千人が必要とされ、これまで延べ四十万人以上が従事してきた。だが、被ばくで労災認定されたのは、東海村JCO事故の被害者三人を除き、現在までに白血病、多発性骨髄腫、悪性リンパ腫の計十一人のみ。壁は厚い。
被ばく労災認定基準で例示される疾患はがんと白血病に限られる。がんの場合、被ばく線量の増加に伴い発症リスクが高まると考えられ、生活習慣の問題や時間がたってからの発病もあり、被ばくと因果関係をさかのぼって証明するのは極めて困難だ。厚生労働省は九月、新しく申請のあった胃がんや食道がん、結腸がんについて、被ばく労災と認定する目安をまとめた。救済の可能性を開くもので疾患の例示に加えるべきだ。
労災適用を求めているのはがん患者に限らない。原発作業員はさまざまな疾患に苦しんでいる。
一九七〇年代に敦賀原発などで働いた福岡市の男性(77)は心筋梗塞を患う。二〇〇八年に労災申請して却下され、福岡地裁で処分取り消し裁判を争う。却下の裁定で、男性の被ばく線量は低く疾患との因果関係はないと判断された。
だが、長崎大での検査では内部被ばくを示すコバルトやセシウムも検出され、弁護団は疾患との関連を主張している。最近の原爆症認定裁判やチェルノブイリ事故後の調査で、被ばくが原因とみられる心疾患など循環器系疾患が認められている。こうした実態も認定に反映させていくべきだ。
そもそも、作業員の側に被ばくと発症の因果関係を証明させるのは無理がある。現場では作業員に線量計を持たせなかったり、被ばく線量を過小に見せ掛ける被ばく隠しも横行。電力会社の多重下請けの下で、国はずさんな線量管理を見逃し、偽りの記録も公式データとされてきたからだ。
横浜南労基署は二月、福島第一原発事故の収束作業中に心筋梗塞で死亡した労働者に、過労死として初の労災認定を出した。過酷な環境で働く原発労働者に救済を広げる、画期的な判断といえる。事故後、高線量の作業が増えて、発症リスクは高まっている。労災認定は内部被ばくが心配される住民らの救済補償にもつながる。
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