中国で来月、十年ぶりに新たな最高指導部が発足する。日中は“政凍経冷”の最悪な状態で、国内の自由な言論空間も広がらない。国民が沈黙しなくてもよい未来へ、政治改革に踏み出してほしい。
北京在住の女性作家、崔衛平さんが中心になり、「中日関係に理性を取り戻そう」と呼びかける声明をネット上に発表した。
崔さんは共産党の一党独裁廃止を求める「〇八憲章」の署名者の一人であり、拘束されたこともある。
言論の自由が制限される中国で、こうした声を上げるのは、実に勇気のいることだ。
作家仲間ら五人ほどで文案を練った声明には、すでに学者や学生ら六百人以上が賛同の署名をしたという。
本紙の取材に、崔さんは「(反日デモで)暴力行為をしたのはほんの一握りで、ほとんどの人は理性的な考えをしているのに、皆沈黙していた」と述べ、民間交流による相互理解を訴えた。
中国当局は逆風と感じたかもしれないが、多くの中国人の冷静さを鋭く見抜いた考えであろう。
抗日と結びつけた愛国教育を徹底するのではなく、自由で理性的な言論を正面から受け止め、政治改革の第一歩としてほしい。
中国籍の作家として初めて、莫言氏がノーベル文学賞に決まった。政治的な発言はしないが、作品では、一人っ子政策など中国社会のひずみも鋭く批判してきた。
体制批判に対する許容度が高まっているのなら、歓迎できる。
十一月八日に党大会開幕という日程発表は、通常より一カ月もずれこんだ。元重慶市トップ、薄熙来氏の処分や人事などをめぐり、派閥間で激しい争いがあったからともいわれる。
引退後の影響力保持や、派閥の勢力拡大は、もちろん共産党のリーダーには死活問題であろう。
だが、政治中枢である中南海の権力闘争のあおりで、対日強硬路線が突出したり、一向に民主化が進まないようでは困る。
国慶節(建国記念日)を祝う人民日報の社説は「希望に満ちた中国の道を進もう」とうたったが、政治改革には触れなかった。
新指導部は、多くの国民が沈黙せざるをえない社会を少しずつ変えていってほしい。言論の自由の拡大を突破口に、政治改革を進めていくことが、次代の真の希望になるであろう。
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