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大学入試問題に非常に多くつかわれる朝日新聞の天声人語。読んだり書きうつしたりすることで、国語や小論文に必要な論理性を身につけることが出来ます。会員登録すると、過去50日間分の天声人語のほか、朝刊で声やオピニオンも読むことができます。
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今の季節、空が澄みわたる日には、すべてのものがはっきり瞳に映る心地がする。残暑のほてりもいつしか遠のき、気がつけば秋のただ中である。思うに任せぬ人の世を尻目に、天地のめぐりは律義なものだ▼ひと月前はまだ暑かった。「せめて秋の気分を」と思いススキを花瓶に挿(さ)したと書いたら、いくつか便りをいただいた。ある地方ではススキを屋内に飾ると火事を出す、との言い伝えがあるそうだ。彼岸花もだめ、という所もあるらしい▼なるほど、彼岸花は群れ咲く姿が紅蓮(ぐれん)の炎を思わせる。火事への連想はうなずけるが、はて、ススキはなぜだろう。そういえば〈夕焼、小焼、薄(すすき)のさきに火がついた〉という童謡が北原白秋にある。ぽっと燃えだすイメージを勝手ながら想像した▼ススキは地味ながら、古来ファンが多い。清少納言も大いにほめている。〈秋の野のおしなべたるをかしさは、薄こそあれ〉。秋の野の風情はススキのおかげよ、と礼賛されて、ススキ一族は鼻高々なことだろう▼秋台風が去って、列島の空はおおむね澄み渡る。日本晴れの語に季節の決まりはないが、やはり秋がふさわしい。晴れあがった夜は冷えて、木々は錦の刺繍(ししゅう)を織りなしてゆく▼盛りの紅葉は、初霜前線を抜いたり、抜かれたりしながら南下するそうだ。〈霜葉(そうよう)は二月の花よりも紅(くれない)なり〉の名句が唐詩にある。霜を経た紅葉は春の花より赤い、は詩的誇張ではあるまい。燃えるような山の粧(よそお)い、きょうはどのあたりまで下りて来たか。