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2012年10月14日(日)付

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静岡原発条例の教訓 民意発信、多様な回路を

 中部電力浜岡原発(静岡県御前崎市)の再稼働の是非を県民に問う条例案が先週、静岡県議会で否決された。

 県民投票実現のため市民団体が集めた署名は16万5千と、必要数の3倍に近い。多くの人々の思いが日の目を見ずに終わるのは、なんとも残念だ。

 浜岡は、福島の原発事故のあと、当時の菅首相が政治判断で停止させた唯一の原発である。

 東海地震の想定震源域にあって、危険性が大きい。近くを東海道新幹線や東名高速が走り、事故が起きれば日本社会全体に甚大な影響がでる。そうした判断からだった。

 その再稼働に、立地県である静岡県民の関心が高いことは署名の多さからもうかがえた。

 ところが、県議会は、市民団体がまとめた原案を全会一致で否決。超党派議員による修正案にも、自民党をはじめ7割以上の議員が反対した。

 投票結果に法的な拘束力はないが、知事や議会はそれを尊重しなければならない。手足を縛られるのを県議らが嫌い、大差の否決になったのだろう。

 同様の署名活動は新潟県でも進んでいる。静岡の挑戦と挫折から教訓をくみとり、次の機会に生かしたい。

■強まる市民の発信力

 静岡県議会で、自民党県議は県民投票の問題点を次のように指摘した。

 国の原子力行政が、静岡県民だけの意思に左右されていいのか。再稼働は賛成か反対かの二者択一にそぐわない――。

 原発政策は、全国の経済活動や国の安全保障とも密接にかかわる。地域の人々が、すべてを考慮して判断をするのは、たしかに容易ではない。

 ○か×かの選択に限界があるのも事実だ。安全対策の進みぐあいや電力需給など条件つきで判断する人は少なくあるまい。

 とはいえ「選挙で選んだ代表に任せろ」という政治のあり方は、もう通用しない。

 署名は、政府が6月に関西電力大飯原発の再稼働を決めたころから急増した。政治不信が広がり、市民が意見を容易に発信できる時代である。政治が「聞きたくない」といっても、人々が黙っているはずはない。

 問われるのは、発信力を強める民意との向き合い方なのだ。

 首長や議員は市民の声に耳を傾ける。そのうえで、二者択一では割り切れない現実への対応をさぐる。どんな判断であれ説明を尽くし、次の選挙で審判を受ける。

 その際、住民投票は民意をくみとる重要な手段となろう。

■いつ、だれに問うか

 静岡では、実際に投票をする際の課題も浮かんだ。

 条例案の原案は、条例の施行から6カ月以内に投票すると定めていた。

 だが、それでは浜岡原発の安全対策が整う前に県民の判断を問うことになる。そこで、修正案では「安全対策が完了し、国が再稼働の検討を開始したと知事が認めるとき」とされた。

 民意は、その時々の状況次第で変わりうる。一方、いったん決まった政策は、長年にわたって人々の生活を縛る。人々が冷静に、的確に判断できる時期を見極める工夫が欠かせない。

 どの範囲で投票するのがふさわしいのかという問題もある。

 原発をめぐり、市町村単位で住民投票をした例はあるが、県単位はない。

 原発事故の被害がおよぶ範囲を考えれば、広域で民意を問うことには意味がある。ただ、原発からの距離など、地域の状況によって住民感情は異なる。

 実際、静岡の条例案採決では、自民は反対を決めながら党議拘束をかけず、民主は自主投票とした。議員の選挙区や支持基盤によって事情が違い、一律に縛るのは難しいからだ。

 市町村単位がいいのか。広域で問う場合も、県境で区切る合理性はあるか。全国民に問う必要はないか。テーマや切迫度で使い分ける方法もあるだろう。

 地方分権の結果、思わぬ問題も生じている。県の条例で市町村に投票事務を義務づけることができなくなったのだ。分権は当然だが、一市町村が拒めば県民投票ができない仕組みでよいのか検討すべきだろう。

■試行錯誤を重ねて

 有権者が選挙で選ぶ代表が、国政や地方自治を担う。その間接民主主義が基本であることは今後も変わらない。

 だが、代表の判断と民意はしばしば乖離(かいり)する。溝を埋めるために、直接民主主義の手法は大いに有効だ。

 日本では特定の政策について民意を問うた経験が乏しい。

 それでも変化の兆しはある。

 政府はこの夏、将来のエネルギー政策を考える「討論型世論調査」を実施した。毎週金曜の首相官邸前での抗議活動も、半年続いている。

 住民投票もふくめ、人々の声を伝える回路はもっと多様であっていい。試行錯誤を重ねながら、様々な手法を磨きたい。

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