山中伸弥さんのノーベル医学生理学賞に続いて、ストックホルムから東アジアに、朗報が届いた。日本にも愛読者が多い中国の莫言さんに、ノーベル文学賞が贈られることになった▼八人兄弟の末っ子だった莫言さんは、十二歳で学業をいったんやめて、働き始めた。土着の匂いと、幻想が入り交じったその文学は中国の広大な大地と、悠久の時間の流れの中で生まれた▼歓声を上げているであろう中国の人々に、お祝いを申し上げるが、ちょっと気になることがある。一昨年のノーベル平和賞は、中国の民主活動家・劉暁波さんに贈られた。中国在住の中国人としては、初のノーベル賞受賞だった▼しかし、中国の官製メディアは黙殺し、中国政府はノルウェーに対して、経済的な報復措置までとった。中国の多くの市民たちは、いまだに平和賞受賞を知らないという▼劉さんは、言論の自由、人権の尊重などを実現することを求め続けた。中国政府は劉さんを獄中につないだまま、莫言さんの文学賞は歓迎するのだろうか。それは、右目さえふさげば、右側にある不都合な事実は見えない、と思うような愚かな行為だ▼文学は、自由という土に咲く花だ。花を愛(め)でるには、土も愛さなくてはならない。莫言さんへのノーベル文学賞は、中国政府にこう言っているのではないか。「両目を開けなさい。自由の土を耕しなさい」