高座に出てきただけで、その場がぱっと明るくなる。そんな天性の華やかさを持つ噺(はなし)家がいる。平治改め十一代桂文治さん(45)もその一人。人懐っこい笑顔は一度見たら忘れられない▼新宿末広亭を皮切りに、襲名披露興行が都内の寄席でにぎやかに開かれている。落語芸術協会会長の桂歌丸さんをはじめ、上方からも笑福亭鶴瓶さんら人気者が駆けつけた▼桂を名乗る東西の落語家の宗家にあたる大名跡。その八年半ぶりの復活である。落語界では、桂三枝さんの文枝襲名と並ぶ慶事だ▼「こう見えてもUSA出身なんです」と笑わせる文治さんは大分県宇佐市の出身。一九八六年に十八歳で先代文治に入門した。九九年、平治の名で真打ちに昇進。二〇〇四年に師匠が亡くなり、七回忌前の一門の集まりで十一代襲名が決まった▼「はなし塚」のある東京・浅草の本法寺で毎年、落語会を開いている。日米開戦の直前、時局にふさわしくないと、当時の落語家たちは廓噺(くるわばなし)など五十三の演目を自粛した。文治さんは、はなし塚に台本を葬った歴史があったことを忘れないようにしたいと誓う▼生粋の江戸っ子だった先代にならい、高座を下りても着物姿で通す。靴は一足も持っていないという。まだ四十代半ば。見た目より若い。師匠譲りの古典落語を勢いよく演じる当代文治は、落語界を牽引(けんいん)する第一人者になるはずだ。