誰もが知らない間に犯罪者に仕立て上げられてしまう時代になった。大阪と三重で発覚したパソコン(PC)の遠隔操作事件はその恐ろしさを物語る。冤罪(えんざい)を生まないよう捜査は慎重を期すべきだ。
一貫して「身に覚えがない」と否認しているのに、男性二人が八月と九月に相次いで捜査当局に身柄を拘束される事件があった。いずれもPCを使った威力業務妨害容疑だった。
大阪府のアニメ演出家は、七月に大阪市のホームページに無差別殺人を予告する書き込みをしたと疑われ、業務妨害罪で起訴された。八月に日本航空に届いた飛行機の爆破予告メールの発信源ともみられた。
三重県の無職男性は、九月にインターネット掲示板の2ちゃんねるに伊勢神宮の爆破予告を書き込んだ疑いが持たれた。
ところが、三重のPCには新種の“乗っ取りウイルス”が感染していて、他人が遠隔操作できる状態だったことが判明した。大阪のPCも調べ直してみると、類似のウイルスに感染していた痕跡が確かめられたという。
二人とも事件には関わっていなかった可能性が高まり、釈放された。アニメ演出家の勾留は一カ月近くに及んだ。危うく無実の罪を着せられるところだったのだ。
サイバー犯罪の捜査では、情報端末のネット上の住所に当たるIPアドレスを手掛かりに持ち主を割り出すことが多い。だが、この手法に頼り切ると冤罪を生み出し、真犯人を逃しかねない。この事件はそう警鐘を鳴らしている。
ネット社会では誰の情報端末であれ、第三者に乗っ取られ、勝手に操作される危険がつきまとうことを自覚したい。役所や企業、個人の情報を盗んだり、流出させたりする中継点として気づかないうちに悪用されることもある。
PCやスマートフォンなどの情報端末では基本ソフト(OS)やウイルス対策ソフトを最新に保つ。不審なメールの添付ファイルを開けたり、怪しいウェブサイトに接続したりしない。利用者も自衛手段を忘れてはならない。
情報技術(IT)は“秒進分歩”で進化している。サイバー犯罪者はいつも最先端の知識や技術を駆使して個人や組織のコンピューターに侵入し、新手の攻撃を仕掛けてくる。
いたちごっこの面は否めないが、捜査当局も捜査手法を磨き続ける必要がある。そうでないと犯罪者に裏をかかれるばかりだ。
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