DNA型は指紋と同様、個人を識別する確実な手掛かりだ。現在では、四兆七千億人に一人以上の確率で識別可能らしいが、捜査に導入された当初は鑑定の精度は低かった▼そのころに起きた冤罪(えんざい)が足利事件である。血液型が同じ条件で一致する確率は八百人に一人。「最新の科学鑑定」と過信した捜査の誤りによって、無実の人が十七年間も獄中につながれた▼二人の男性が今、サイバー犯罪の捜査で冤罪に巻き込まれている。パソコンの「住所」であるIPアドレスを特定し、警察は逮捕に踏み切ったが、第三者が二人になりすまし、殺人予告メールなどを送信した疑いが浮上したという▼パソコンは「遠隔操作型ウイルス」に感染、外部から乗っ取られた可能性が強い。空き巣が悪さをしたのに住人が犯人にされたという構図だ。大阪府警に逮捕された男性は著名なアニメ演出家で容疑者として実名報道された▼赤の他人のパソコンを意のままに動かし、殺人予告メールの犯人に仕立て上げる−。専門知識を悪用した卑劣な犯罪の被害者に、誰がなってもおかしくはない▼持ち主が特定される自分のパソコンを使って、殺人予告メールなどを送るのだろうか。捜査員だって素朴な疑問を抱いたはずだ。サイバー犯罪の捜査は技術の進歩といたちごっこだ。捜査能力への過信は冤罪の温床になると、肝に銘じてもらいたい。