大震災で家を失った被災者が抱えた多額の住宅ローンなどを減免する制度がある。だが、この仕組みで債務を整理したのは、まだ八十件余りだ。生活再建に役立つ手法をもっと活性化させるべきだ。
家が津波で流されたり、地震で倒壊した被災者には、住宅ローンだけが残ったケースが数多くある。被災ローン減免制度は、震災前のローン返済のめどが立たないときに、借入金と抵当権を整理する仕組みだ。
制度を使うのに、お金はかからない。申し込むと「登録専門家」と呼ばれる弁護士らが紹介され、債務や財産を確認したうえで、整理案をつくり、金融機関などと交渉し、同意のもとで債務の減免が受けられる。
義援金や災害弔慰金、生活再建支援金などとは別に、預貯金を最大五百万円まで手元に残すことができるメリットもある。
破産手続きと異なって、いわゆるブラックリストに載って、何年間も新たな借り入れが不能になることはないし、保証人に督促が回ることもほとんどない。
被災者を救済するために昨年八月下旬からスタートした制度なのに、今月一日現在で申し込みがあったのは三百五十七件で、債務整理ができた件数は、たったの八十三件にとどまる。仕組みがあっても使われていないのだ。
その要因の一つは、金融機関側が被災者に、震災直後は返済を一時停止したうえで、「リスケジュール」と呼ばれる債権繰り延べ方式を勧めたことにあるようだ。例えば月々のローン返済金額が十万円ならば、返済期間を延長するなどの条件変更をして、七万円にする方法である。実際に条件変更契約の件数は震災後から急激に増えて、今年四月現在では約一万八千にのぼる。
この場合、震災前の住宅ローンは残ったままで、義援金や支援金を返済の支払いに回してしまう。
これらのお金は本来、被災者が生活再建に充てるべき性質のものだろう。金融庁は今夏に、減免制度を積極的に紹介するよう局長通達を出した。
家をなくした被災者は、高台移転などで、新たな住宅を建てる必要に迫られる。そのとき震災前の債務が残っていると、被災者の再出発の足かせになろう。
減免制度はもともと一万件ほどの需要を見込んでいた。金融機関も行政も、被災者に有利に働くはずの仕組みをわかりやすく周知し、活用してほしい。
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