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天声人語

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2012年10月7日(日)付

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 「芝居というものは、しみこむほど稽古(けいこ)をして、にじみ出せるようにする」。亡くなった大滝秀治(ひでじ)さんの芸への姿勢は、劇団の先輩、宇野重吉さんの教えでもあった。きびしい稽古ぶりをお聞きしたことがある▼40余年前、東京裁判をテーマにした舞台劇「審判」でのこと。大滝さん演じる日本人弁護人は裁判の正当性に根源的な疑問を投げかける。その重要なせりふに、演出の宇野さんは連日、これでもかとダメ出しをした▼「あまり興奮しないように」「正義の味方になってはいけない」「異議申し立てではない」「ごまめの歯ぎしりのように」「最後っ屁(ぺ)のように」。実に16通りもの注文がついた。びっしり書き込んだ台本を、大滝さんは大事にしていた。この大役で、遅咲きと言える花を咲かせる▼娘さん2人が幼いころは「悪役」が多かった。時代劇では切られる、子どもは誘拐する。奥さんが娘とテレビを見ていたら「お父さんはあんなひどい人じゃないーっ」と泣きだしたそうだ▼その後の活躍と、齢(よわい)とともに増していった存在感は誰もがご存じだろう。大まじめに話しながら、とぼけたユーモアがにじむ。巧まざる飄然(ひょうぜん)、哀と歓。古酒の味わいにも似た円熟は、しみこむような稽古の賜(たまもの)だったに違いない▼6年前にお会いしたとき、「テクニックというものには『たくらみ』が入っているんです」と話していた。にじみ出る味わいとは違う。そんな意味にお聞きした。享年87。枕元には舞台の台本が置かれていたそうだ。

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