来月に迫った米大統領選挙を前に、一回目の候補者討論が行われた。政府の役割をめぐり、オバマ大統領、ロムニー前マサチューセッツ州知事両候補の二つの国家観の違いがますます際立っている。
ほぼ一年間に及ぶ大統領選挙にあって、候補者同士が相まみえるのは三回行われる討論の場だけだ。内政問題に絞った初回の討論の機会を生かしたのは共和党のロムニー候補だった。
「自由な個人の創意よりも政府の方が優れている、との考え方は機能しない。二千三百万人の失業者、六人に一人の貧困層、四千七百万人の食料切符受給者、さらに、大卒者の半数が職を得られていない現実がその証拠だ」「オバマケア(医療保険改革法)が実施されれば、保険料は上がり、雇用が失われる」
討論直前の失言問題などから劣勢が伝えられ、自ら期待度を下げる戦術に出ていたこともあろう、世論調査も「小さな政府の効用」を説いて終始攻勢に出たロムニー氏が初戦を制したとしている。
これに対し、民主党オバマ大統領は、「米国人の天性の資質は自由な起業精神にある」としながらも、「政府には国民が成功を収めるための機会、枠組みをつくる力がある」と持論を展開した。自動車産業復興のための公的資金投入、ウォール街の暴走への規制強化、中産階級への減税などを通じ、未曽有の経済危機を不十分ながらも立て直した、との立場だ。
雇用から財政政策まで、あらゆる点で対立軸を示す両候補者だが、党大会、本選を通じ双方が唱えていた「米国の針路を問う」選挙の様相が一層鮮明になった。
当初懸念されていたような中傷合戦やローブローの応酬はなく、データと政策を競い合う本格的な討論だった点は歓迎したい。
大統領選挙における候補者の直接討論は大きなハイライトだ。テレビ討論が始まった一九六〇年のケネディ−ニクソン対決以来、幾つもの歴史的場面を残してきた。しかし、選挙戦最終盤に実施される討論が、有権者の投票行動を変えるほどのインパクトを与えてきたかについては、専門家の間でも議論がある。
来月六日の投票までに、二回の討論会、そして副大統領候補同士の討論会が予定されている。
冷戦後の不透明な国際秩序の中で、超大国米国の選択は大きな指針となる。有権者はもとより国際社会をも納得させる、より大きな国家観を戦わせてほしい。
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