国土交通省の有識者会議が首都高速道路の都心環状線について「高架橋を撤去し、地下化を含めた再生を目指すべきだ」と提言した。費用や景観などを考えれば廃止という選択もある。
都心環状線は、一九六四年の東京五輪に合わせて整備された首都高速道路の最も内側にある。東京の中心部、千代田、中央、港区を通る全長約十五キロだが、築後半世紀を経て老朽化が著しい。
高架橋の倒壊が目立った阪神淡路大震災を引き合いに出すまでもなく、首都直下型地震に備えて高架橋を撤去すべきだとする提言部分は妥当である。南海トラフなど三連動地震の警戒が必要な名古屋や関西圏での老朽化した高速道路対策の参考にもなるだろう。
防災以外に、首都の景観を損ねたり、騒音や振動など都市環境の面からも撤去は望ましい。
しかし、撤去に続く「地下化を含めて再生を」との点については疑問が残る。まず、都心環状線は半径がわずか二キロ余りしかない。世界の主要都市の環状道路はパリや北京が半径五キロ台、ワシントン十六キロ、ロンドン三十キロで、これらと比べて極端に小さい規模だ。廃止しても影響は限られよう。
しかも都心環状線の外側には中央環状線、外環道、圏央道と三本もの環状道路が建設中だ。外環道と圏央道は開通部分が半分に満たないが、巨額の投資をめぐって反対の声も強い。そのうえ、さらに数兆円をかけて都心環状線を残す必要があるのか。
かつて重要文化財である「日本橋」の景観を損ねているとして、橋の上を通る都心環状線の一部分を地下化する計画が浮上したことがあった。しかし、五千億円程度の財源がネックとなって実現しなかった。単純に撤去するだけなら全線でも二千億円程度とみられている。
環状線の役割は都心部への流入を迂回(うかい)させるためのものだ。都心環状線の場合、この迂回車両が約六割で、残りの四割が都心で降りたり乗ったりする。単純に撤去だけした場合は、一般道の混雑や渋滞が増える可能性がある。
対策として、パリのように中心部では貨物車の流入・流出を時間帯で規制する例もある。ロンドンでは中心区域を通る車両に料金を課して渋滞解消を図っている。
知恵や工夫次第で、防災に強く安心で快適、風情豊かな首都・東京に改造していくことができるはずだ。
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