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大学入試問題に非常に多くつかわれる朝日新聞の天声人語。読んだり書きうつしたりすることで、国語や小論文に必要な論理性を身につけることが出来ます。会員登録すると、過去50日間分の天声人語のほか、朝刊で声やオピニオンも読むことができます。
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生まれては消え、消えては生まれ。うたかたのような言葉の中にも、生き延びて市民権を得るものがある。腹が立つ意味の「むかつく」もどうやら根を張ったらしい。日常会話で使う人が全体の約半数、30代までに限れば4分の3を超えるそうだ▼文化庁の国語世論調査は毎年、ひとしきりの話題を提供してくれる。今年の調べでは、「なにげなく」を「なにげに」と言う人が約3割いた。「正反対」を「真逆(まぎゃく)」、「中途半端でない」を「半端ない」がともに2割強と聞けば、言葉は生きものだと痛感する▼この手の言葉は、若者の間から生まれて、年かさの世代へ攻め上がる。年配層は眉間(みけん)にしわが寄るが、「真逆」も「半端ない」も16〜19歳では6割以上が使っている。遠からず定着と相成るのだろう▼これを乱れと見るか、言葉の賑(にぎ)わいと見るか。茨木のり子さんに「日本語」と題する詩がある。〈制御しがたい奔流は/濁りに濁り/溌剌(はつらつ)と流れてゆくがいい/決壊を防ごうと たとえ百万人/力を併せて清潔なダムを作ってみても/そこに魚は住まないだろう〉▼茨木さんは別の随筆で、聞き苦しい言葉は無数にあると言いつつ、「いやな日本語を叩(たた)きつぶせば、美しい日本語が蘇(よみがえ)るというものでもないだろう」と書いていた▼曖昧模糊(あいまいもこ)を「あいもこ」、かくかくしかじかでを「かくしかで」――などと若者言葉は多彩だ。眉が八の字になりかけるが造語の才には脱帽する。頑迷にならず、迎合もせず、生きた濁流を眺めようか。