「芸人が若い時分からあわてて売り出すなン ぞは、あんまりいいことじゃァない。はじめは威勢がいいが、くたびれるのも早いです。若いころはえらく陽気だった芸が、年ィとるてぇと、えらく地味になったりするもン ですよ」。若い頃は、まるで売れなかった古今亭志ん生の言葉だけに説得力がある▼芸人とは生きる世界は違うが、若くして「先生」と呼ばれた政治家はどうだろう。礼儀正しく先輩を立て、当選を重ねながら発言力を高めていくのが常道だろうか▼世襲議員がタカ派度を競い合った感のある自民党総裁選は、安倍晋三元首相が総裁に返り咲いた。最も党員票を集めた石破茂元防衛相は、一匹オオカミ的な態度や離党経験が党長老から嫌われたらしい▼三年前の政権交代は自民党への不信が極まった「オウンゴール」の意味合いが濃かったが、信頼を取り戻せているわけではない。討論会を聞いていると、自らが進めてきた原子力政策にしても反省は口先だけとしか思えない▼「力がつくにつれて、だんだんと売れてくるってぇことでないと、決して長続きしません。だから、あたしゃァ、ウチの志ん朝なン ぞに、『線香花火になるな』って、いつも注意してやってますよ」(『びんぼう自慢』)▼体調の不良で政権を投げ出した安倍さんだが、首相になるのが早すぎたのかもしれない。捲土(けんど)重来となるか。