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大学入試問題に非常に多くつかわれる朝日新聞の天声人語。読んだり書きうつしたりすることで、国語や小論文に必要な論理性を身につけることが出来ます。会員登録すると、過去50日間分の天声人語のほか、朝刊で声やオピニオンも読むことができます。
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「昭和二十二年の井伏さん」という短い一文が井上ひさしさんにある。作家の井伏鱒二がその年に井上さんの本家筋の造り酒屋にやってきた。のぞき見ると「丸顔の人がにこにこしながら盃(さかずき)を口に運んでいた」そうだ▼お酒を傍らに、土地の文学青年らが持ち込んだ原稿にすこぶる的確な評を与えて、宵の口に別の町へ発ったという。だが、その井伏さんは真っ赤な偽者(にせもの)だった。白いご飯とお酒を目当てに「偉い先生」になりすまし、田舎に出没する者が当時は珍しくなかったらしい▼どこか憎めない「にせ文士」と違い、警視庁などが逮捕したニセ医師(43)は深刻だ。東京や長野、神奈川の医療機関で1万人以上がこの人物の健康診断を受けたと見られる。命にかかわる見落としがなかったか心配になる▼同姓の医師になりすました男は、独学で知識をかじったそうだ。長野では企業に出向く形で健診をこなし、問診や触診もした。明るくて好評だったというから皮肉である▼なりすましといえば、イラストレーターの南伸坊さんは有名人に顔を似せるのを得意技(わざ)にする。その写真を集めた『本人伝説』(文芸春秋)の宣伝文句は言う。「自分ひとりが本人と思い込んでいる虚をついて、著者が本人になりすます」▼伸坊さんなら光栄だが、どこでもう一人の自分が大手を振っているか、悪事を働いているか分からない。オウム逃亡犯もそうだった。その危うさをネットが増幅する。有名無名を問わず、虚をつかれやすい時代になった。