東京のど真ん中に、信じられないほど自然が残されている森がある。国立科学博物館付属の自然教育園(港区)だ。その一角で、平賀源内が故郷の讃岐から持ち込んだといわれるトラノオスズカケが、紫色の花を咲かせている▼九州と四国の一部に自生するゴマノハグサ科の絶滅危惧種だ。花の形を「虎の尾」と山伏の装束である「鈴懸」に例えたのが名前の由来という▼この地で発見されたのは御料地だった一九三二年。その後、絶滅したと思われていたが、二〇〇八年に再び発見された。周囲の高木が枯死したため、埋もれていた種に光が差し込み発芽が促されたらしい。自然の底力である▼もともとは高松藩の下屋敷があり、源内が薬園をつくった記録がある。故郷から持ち込んだこの草が野生化して、江戸期から平成のこの時代まで命をつないだようだ▼源内といえば、史実かどうか定かではないが、夏場の売り上げ不振に悩む鰻(うなぎ)屋に請われて、「本日土用丑(うし)の日」のキャッチコピーを発案したとされる話が有名だ。今やそのニホンウナギは乱獲などが響いて、こちらも絶滅危惧種に指定されることになった▼法的な強制力はないとはいえ、禁漁を求める声は一層強まるだろう。稚魚のシラスウナギは産卵地の西マリアナ海嶺(かいれい)から、日本の河口まではるばると遡上(そじょう)してくる。野放図に取り尽くす愚はもう許されない。