HTTP/1.1 200 OK Date: Sun, 23 Sep 2012 22:21:52 GMT Server: Apache/2 Accept-Ranges: bytes Content-Type: text/html Connection: close Age: 0 東京新聞:週のはじめに考える 新たな井戸を掘る者は:社説・コラム(TOKYO Web)
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【社説】

週のはじめに考える 新たな井戸を掘る者は

 日中は、国交正常化四十周年を迎えます。残念ながら今、仲は冷え込んでいます。若い世代の交流こそが、関係を未来志向へと動かす力でしょう。

 驚くべき数字があります。内閣府が二〇一〇年秋に実施した世論調査で、中国との関係を「良好だと思わない」との回答が、過去最高の88・6%にも上りました。

 沖縄県の尖閣諸島沖で漁船衝突事件が起こった直後の調査です。日系企業の破壊や略奪にまで過激化した反日デモが吹き荒れたばかりです。現在の対中感情はもっと悪いかもしれません。

 パンダの来日などで熱烈歓迎ムードに沸いた正常化の直後は、中国に「親しみを感じる」との回答が八割近くありました。

◆外交のパイプ機能せず

 一九七二年九月二十九日に正常化の共同声明に調印しました。その当時、日中間の人の往来は年間一万人程度でした。今は五百万人を超えます。

 相手の国をよく知らない時よりも、飛躍的に交流が増えた現在、隣国を嫌いになってしまう。こうした状況は本当に不幸です。いてついた感情を解かし、対話を進めるには何が必要でしょうか。

 もちろん、国と国との外交努力が基本なのは、言うまでもありません。しかし、日本は中国の反対を押し切って性急に尖閣諸島の国有化を進め、中国も愛国心をあおるような形で、大規模な反日デモを容認しました。

 外交のパイプがうまく機能していない今、対話の糸口となるような、民間交流の大切さをあらためて考えてみたいのです。

 歴史を振り返れば、地道な民間貿易の推進が、国交正常化へとレールを敷いたのです。

 三十周年の機会に訪日した全国人民代表大会の李鵬委員長は「若い世代の友好の感情を育てよう」と強調しました。

 民間交流の中でも、特に若い人たちの本音のつきあいが、日中関係を支えるという認識を、中国指導者も持っていたのです。

 近年、日本に留学中の中国人は約八万人で、中国に留学している日本人は一万五千人余です。

 若い日本人の中国理解という点では、この差は気がかりです。日本からの留学生をもっと増やす努力が求められます。

◆伝えたい等身大の日本

 実際に隣国に住み、その文化や風土、人間性を肌で感じることは、相手の国を理解するうえで、必ずや大きな力になります。

 特に、中国の若い人たちには本当の日本の姿を見てもらうことが大切です。九〇年代に愛国教育を受けた世代が、反日デモで「対日開戦」などの物騒なプラカードも掲げました。

 しかし、実際に日本を訪れてみれば、平和国家の道を歩む今の日本には、中国と武力紛争を構える雰囲気など毛頭ないことを肌で感じるでしょう。

 最初から親日である必要はありません。中国の若い世代に、正確な理解に基づく知日派を育てることが、未来志向の関係を育てる土壌になると期待します。

 日中両国をよく知る大人たちの責任も重いといえます。特に、言論の自由が制限される中国では、等身大の日本が伝えられにくいことが気がかりです。

 日本在住のある中国人学者から「中国に帰って日本の良い面を伝えると非難されることもあり、ありのまましゃべれない」との悩みを聞いたことがあります。両国にとって悲しむべきことです。

 天安門事件で国際的に孤立した中国に、日本は先進国でいち早く政府開発援助(ODA)の再開を決めました。デモで被害を受けたパナソニックは他の日本企業に先駆けて中国に進出し、近代化を助けてきました。

 こうした前向きな歴史がきちんと若い世代に伝えられていれば、過激な行動も抑制されたのではないでしょうか。愛国心の政治利用もできなくなるのです。

 政治、経済、文化など日中双方の各界に、数多くの「井戸を掘った人」がいました。その人的遺産をうまく受け継いでこられなかったのが、極端な対立を避けられなかった原因かもしれません。

◆「私は種をまきました」

 来日して十七年の名古屋−南京留学生促友会の韓金龍さん(52)は六年前から毎年、民間寄付だけで友好の桜を南京に贈る活動を続けてきました。南京の公園の桜はすでに千百本を超えました。

 韓さんは二年前、促友会会長を名大大学院の女子留学生、高媛さんに譲り、後方支援に回りました。「私は種をまきました。草の根交流のバトンを引き継いでいくことが大切です」と言います。

 波が高い今だからこそ、若い民間交流の中に、未来への井戸を掘る人を探し、育んでいくべきなのでしょう。

 

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