本当に強い選手とは、勝利を目指しながら、それ以上のものを求める人たちなのだろう。ロンドン五輪の勝者たちは、メダルに負けぬ輝きを持つ言葉を残した▼「正直言うと、体操をやめるまで、自分の満足する演技はできないと思う」と大会前に話していたのは、内村航平選手。男子個人総合で優勝してのひと言に、すごみを感じた。「一番いい色のメダルを取った今も満足した感じはない。結果ではなく表現したい理想の体操がある」▼ボクシング男子ミドル級の村田諒太選手は、かつての不良少年。金メダルを勝ち取って、高校時代の亡き恩師への思いを口にした。「先生と同じように五輪選手を育てることが、金メダルより世界チャンピオンよりも価値がある」▼男子20キロ競歩に出た中米グアテマラのバロンド選手は、五輪前にテレビを両親に贈った。一家にとって初のテレビ。その画面の中で躍動して二位。長い内戦の傷に苦しむ母国に、史上初のメダルをもたらした▼「メダルを見て子どもたちが銃やナイフを置き、トレーニングシューズを履いてくれたらいい。そうなれば僕は世界一幸せな人間だ」。四年後のリオデジャネイロ五輪が、貧困に苦しむ子どもたちの目標になれば、と思う▼五輪発祥の地・古代ギリシャの歴史家の言葉を、彼らに贈りたい。<勝利は美しい。が、勝利を活(い)かすことはもっと美しい>