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大学入試問題に非常に多くつかわれる朝日新聞の天声人語。読んだり書きうつしたりすることで、国語や小論文に必要な論理性を身につけることが出来ます。会員登録すると、過去50日間分の天声人語のほか、朝刊で声やオピニオンも読むことができます。
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実話か作り話か定かではないが、こんな話を聞いたことがある。昔、乾燥地の国から来た客人が、ひねると水がほとばしる蛇口を見て「土産に欲しい」と熱望したそうだ。水道を知らなかったので、蛇口が奇跡の水源に見えたものらしい▼時代がかった話だが、命の水に事欠く人は今も少なくない。国際協力機構(JICA=ジャイカ)の発行するジャイカズ・ワールド8月号が「一滴の重み」と題して特集している。その表紙、蛇口の水を両手で飲むアフリカの少女の写真が目を引く。したたる貴重な水は、透き通った宝石のような輝きだ▼水を欲して飲むとき、人はだれも真剣な顔になる。少女も一心そのものだ。のどを通った水は胃に落ちて五体をみたす。この蛇口ひとつに、どれだけの人が命をゆだねているのだろうと思う▼日本では、1人1日平均で約370リットルも使うそうだ。体重が60キロなら重量は6倍を超す。片や世界には安全な水を得られない人が8億人近くいる。水は天下の回りものだが、「一滴の格差」は著しい▼「水道のせん」という詩が、まど・みちおさんにある。〈水道のせんをひねると 水が出る/水道のせんさえあれば/いつ どんなところででも/きれいな水が出るものだというように……〉と、日ごろの勘違いを戒める言葉が続く。そう、蛇口は魔法の水源ではない▼乾いた大地から一滴一滴をしぼり取るように生きる人々に、思いをはせたい。天与の水を当たり前とせず、水清くゆたかな国土への感謝とともに。