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2012年8月13日(月)付

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エネルギー政策―もっと熱に目を向けよう

 エネルギーの将来をめぐる論議が熱を帯びている。2030年時点の原発の比率が焦点だ。

 しかし、原発が生み出す電力は、家庭や工場が使うエネルギー源の一つにすぎない。

 電力以外のエネルギーに視野を広げて、論議を深めなければならない。

■地中熱を使って冷房

 全国で2基しか原発が動いていないこの夏、エアコンをなるべく使わずに節電を心がけている人は多いだろう。

 多くのエアコンは電気を使うが、冷房とは低温の熱を室内に満たすことだ。この熱を電力以外の手立てによって充足できれば、電力需要を減らし、原発依存の低下につなげられる。

 今年5月に開業した東京スカイツリーでは、地中熱を利用した日本初の地域冷暖房が行われている。

 タワーの地下120メートルまで特殊チューブが埋められている。地中温度は外気温と比べて、夏は冷たく、冬は温かい。この熱を地中から取り出し、水族館や店舗の冷暖房に使う。

 冷温熱をためる巨大な水槽や最新鋭の熱源機を加え、個別に冷暖房をした場合よりも効率を4割以上改善したという。

 東京スカイツリーの南西約3キロにある箱崎地区。ここのビル街では、そばを流れる隅田川の水の熱を取り込んで冷温水を作り、各ビルの冷暖房に使っている。その分、外部からの電力を減らしている。

 給湯など暮らしの中の熱需要を満たす手段としては、太陽熱温水器がおなじみだ。70年代の石油危機後に起きたブームは、悪質な業者の横行や政府の支援策の縮小とともに消えた。

 だが近年、老人福祉施設や病院などで、太陽熱や地中熱の導入例が増えている。

■熱電併給で効率化を

 太陽や大地、海、川が持つ熱、地下鉄や変電所の廃熱、ごみ焼却時の熱――。社会の中に隠れた熱エネルギーは数多くある。それを見つけ出し、利用する道を広げていきたい。

 そもそも電力を作りだす段階で、生まれる熱の多くが利用されず、捨てられている。

 火力発電所は石油や石炭、天然ガスなどの化石燃料を投入して、電力を取り出す。通常、発電効率は4割にとどまり、残り6割が廃熱となっている。原発では7割前後が温排水として海に排出されているという。

 日本は昨年度、約23兆円を費やして化石燃料を輸入し、3割弱を発電用に使った。そのエネルギーの多くが廃熱として捨てられるのは、もったいない。

 火力発電の「無駄」を減らし、温暖化対策にも役立つ手として注目されるのが、コージェネレーション(熱電併給)だ。

 発電所で生まれる廃熱を利用して温水をつくり、電気と熱の両方を供給する。それにより通常の火力発電の2倍まで効率が高まる。規模の小さなコージェネは分散型のエネルギーシステムの構築に向いている。

 コージェネの普及ではドイツや北欧が先行している。日本でも、都市ガスを使う家庭用燃料電池の利用が徐々に広がっているものの、地域単位でのコージェネの利用は頭打ちだ。

 熱供給管の敷設にあたっての規制の厳しさや燃料費の高騰が普及への壁になっている。

 新しいエネルギー政策に向けて政府が示した三つの選択肢では、どの原発比率を選択するにしろ、30年には現状の約5倍の15%までコージェネの発電割合を引き上げる計画だ。

 経済産業省はコージェネの推進室を発足させた。中小企業や地方自治体への啓発とともに大胆な推進策を進めるべきだ。

■省エネの国際競争

 こうした方策の効果はどうだろう。政府の選択肢では、三つのどの場合でも、30年時点で10年に比べ約1割の省電力を予想する。熱利用や輸送燃料を含めた最終エネルギー消費では2割削減を見込んでいる。

 これらの予測値は低すぎやしないか。日本総研は「3・11」以来の国民の節電努力を踏まえれば、最大15%の需要削減が可能と試算している。

 民主党の議員連盟「脱原発ロードマップを考える会」は、遅くとも25年度までに原発ゼロを実現するため、省電力20%、省エネ25%を提案している。

 すでに省電力・省エネの国際競争は激しくなっている。

 欧州連合(EU)は、エネルギー効率を20年までに2割改善する目標を掲げている。省エネ機器の導入だけでなく、建物の断熱強化、発電所の効率向上など、熱分野の対策が手厚い。経済成長や雇用創出への弾みにしようという発想も強い。

 日本社会はエネルギー、とりわけ電力の大量生産と大量消費を前提にしてきた。

 これからは自然エネルギーの拡充とともに、社会全体の省電力・省エネに向けた政策を総動員する必要がある。その明確な意志が、脱原発実現への足取りを確かなものにする。

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